宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 134, 2008

一般演題

20. 無重量環境における損傷骨格筋の再生とミオスタチン機能阻害の影響

大野 善隆1,後藤 勝正1,杉浦 崇夫2,大平 充宣3,吉岡 利忠4

1豊橋創造大・リハビリ
2山口大・教育
3大阪大・院・医学系
4弘前学院大

Effect of unloading and/or myostatin-inhibition on the regeneration of mouse soleus muscle

Yoshitaka Ohno1, Katsumasa Goto1, Takao Sugiura2, Yoshinobu Ohira3, Toshitada Yoshioka4

1Laboratory of Physiology, Toyohashi SOZO University, Toyohashi
2Faculty of Education, Yamaguchi University, Yamaguchi
3Graduate School of Medicine, Osaka University, Toyonaka
4Hirosaki Gakuin University, Hirosaki

損傷した骨格筋の再生や筋肥大には筋衛星細胞の活性化が必要であり,機械的ストレスや温熱ストレスの負荷は筋衛星細胞を活性化することが知られている。したがって,筋活動の抑制による骨格筋への機械的ストレス負荷の減少は損傷骨格筋の再生を遅延化すると考えられる。一方,筋衛星細胞は筋肉が自己分泌する成長因子の1つであるmyostatin(MSTN)機能の阻害により活性化し,損傷骨格筋の再生を促進する。そこで本研究では,筋活動の抑制が損傷骨格筋の回復過程に及ぼす影響についてMSTN機能を阻害したMSTN dominant negative-expressing form(MSTN-DN)マウスを用いて検討した。MSTN-DNおよびwild typeマウスを対照(C)群,筋損傷(CX)群,後肢懸垂(S)群および懸垂+筋損傷(SX)群の4群に分類した。S,SX群は尾部懸垂し,両側後肢の筋活動を抑制した。CX,SX群は,S,SX群の懸垂開始2週間後にヒラメ筋にcardiotoxin (CTX; 0.01 mM)を筋注(0.1 ml)し,筋損傷を引き起こした。CTX筋注4週間後にヒラメ筋を摘出し,筋湿重量を測定した。また免疫組織学染色により筋衛星細胞を,HE染色により再生状態を病理学的に評価した。MSTN-DNマウスの筋湿重量はCTX筋注後4週後にCX,SX群はそれぞれC,S群と同レベルまで回復していた。またS,SX群はC,CX群に比べて有意に低値を示した。MSTN-DNマウスではS群の相対的な筋衛星細胞数はC,CX,SX群に比べて有意に低値を示した。さらにSX群の静止期の筋衛星細胞はS群より減少していた。HE染色像において,MSTN-DNマウスのCX,SX群では多くの中心核線維を認めた。一方,wild typeマウスの筋湿重量はSX群では明らかな回復は見られなかった。Wild typeマウスのS,SX群の相対的な筋衛星細胞数はC群,CX群と比較して有意に低値を示した。SX群ではCTX筋注後にも増加は認めなかった。HE染色像において,wild typeマウスのCX群には多くの中心核線維を認めたが,SX群では中心核線維は少ない傾向にあった。CX群の中心核線維の割合は有意にSX群で低値を示した。損傷骨格筋の再生過程は,筋細胞の壊死と再生の2つの過程に大別され,後者の過程には筋衛星細胞が重要な役割を果たしている。懸垂による筋活動の抑制は,筋衛星細胞の増加を抑制して,損傷骨格筋の壊死-再生過程を遅延化させることが示された。一方MSTN-DNマウスでは,筋活動抑制下でも筋衛星細胞が活性化し,損傷骨格筋再生の遅延は認められなかった。以上より,機械的ストレス除去は損傷骨格筋の回復を遅延させるが,MSTN機能の阻害による筋再生能を亢進させることで,宇宙環境下においても損傷骨格筋再生の遅延を抑制させるかもしれない。尚,MSTN-DNマウスに関する実験は,国立長寿医療センター研究所再生再建医学研究部の橋本有弘博士の協力を得て実施された。本研究の一部は,文部省科学研究費(若手B,19700451; 基盤B,20300218; 基盤A,18200042; 基盤S,19100009),花王健康科学研究会助成金,ならびに(財)日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上公募研究」プロジェクトの助成を受けて実施された。