宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 132, 2008

一般演題

18. 船外活動宇宙服用伸縮性スリーブの有用性評価

田中 邦彦1,東南 杏香1,山方 健士2,村上 尚子2,安部 力1,森田 啓之1

1岐阜大学 大学院医学系研究科 神経統御学講座 生理学分野
2宇宙航空研究開発機構 有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部

Usability of Elastic Sleeves for Extravehicular Activity

Kunihiko Tanaka1, Momoka Tohnan, Kenji Yamagata2, Naoko Murakami2, Chikara Abe1, Hironobu Morita1

1Gifu University, Graduate School of Medicine
2JAXA Human Space Technology Development Group

現在アメリカ航空宇宙局で使用している船外活動用宇宙服は非伸縮性の素材で全身を構成し,内圧を純酸素で220 mmHgに与圧している。この気圧式スーツは,内外の圧較差によって膨張するため可動性に乏しく,飛行士は活動に際して多大な労力を必要とする。これまでに我々は,伸縮性素材で形成したグローブの可動性は従来のように非伸縮性素材によるグローブよりも低圧環境下,宇宙服内外圧較差形成時において可動性,持久性に優れていることを証明した。今回,研究の範囲を上肢全体に拡大し,伸縮性素材を用いた気圧式スリーブの有用性を検証した。実験は右利き健康成人男女10名の右上肢にて行った。1気圧下素手状態および-220 mmHg環境下で非伸縮性スリーブ,伸縮性スリーブ3種(伸縮性生地を縫製したもの,伸縮性生地を無縫製で編成したもの,無縫製生地と非伸縮性生地を混合縫製したもの)の着用下において皮膚血流,皮膚温,肘関節角度および上腕二頭筋筋電図を測定した。血流,温度は4種のスリーブ間に有意差を認めなかった。稼動角度あたりの筋電図振幅は非伸縮性に比較して伸縮性スリーブは有意に小さかったが伸縮性スリーブ間には有意差を認めなかった。以上より安静時衣服内環境は素材の違いによらず同等であるが,現行の非伸縮性宇宙服より伸縮性素材を用いた方が上肢の可動性に優れると考えられた。