宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 131, 2008

一般演題

17. 軌道上における簡易型生体機能モニター装置の研究

大島 博,田山 一郎,石田 暁,立花 正一,向井 千秋

宇宙航空研究開発機構,有人宇宙技術部

Validation of on-orbit Digital Holter ECG monitoring

Hiroshi Ohshima, Ichiroh Tayama, Satoru Ishida, Shoichi Tachibana, Chiaki Mukai

Human Space Technology and Astronauts Department, Japan Aerospace Exploration Agency

国際宇宙ステーション(以下ISS)に搭載されている医療機器は米ロ製のものがほとんどで,現在の医療水準からみると大型で操作が複雑なものもある。宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は,日本人宇宙飛行士の長期宇宙滞在に向けて,小型生体機能モニター装置を搭載化しISS内で医学データを取得し,軌道上遠隔医療技術の向上をめざしている。インクリメント18に搭乗する日本人宇宙飛行士が実施する軌道上遠隔実験の概要と,医療機器の搭載化準備状況を紹介する。
 民生品のホルター心電計(フクダ電子FM-180)を搭載し,ISSに長期宇宙滞在する日本人宇宙飛行士の24時間連続心電波形をモニターし,データをダウンリンクさせ,取得したデータを解析し循環機能や自律神経機能を評価する。その際,HDTVの高解像度画像を用いてホルター心電計の電極装着部位の確認と電極取り外し後の皮膚変化の局所診断を試みる。本軌道上検証でホルター心電計と皮膚遠隔診断の運用の実用性が確認できれば,以後の宇宙医学研究や健康管理運用に活用したい。
 フライト実験の研究計画は,科学審査(有人サポート委員会宇宙医学研究推進分科会),倫理審査(JAXA,NASA,および国際倫理委員会),およびJAXA内のプログラム審査で実験計画の承認を得た。
 宇宙飛行士に対しては,説明と同意を取得した後に,飛行6か月前に宇宙飛行士の訓練が実施した。この訓練は,概要説明書(Payload Overview Material)と実験手順書(ODF)を用いて行った。実験手順書は,事前シュミレーション,必須レビュアー(日米の訓練担当とNASA飛行士室),および訓練時のクルーコメントをふまえて修正し,軌道上実験用最終版とする。
 次に搭載機器に関しては,医療機器をISSに搭載するため,搭載性試験(オフガス試験や電磁適合性試験など)をもとに安全評価レポートを作成し,JAXAおよびNASAの安全審査会で,ハザードを識別し,安全基準を満たしていることを確認した。
 また,実験運用に関しては,軌道上実験の利用要求(各作業毎のクルー時間,電力量,時間,ダウンリンク量などの要求),および保管・保全要求(打ち上げ・回収・軌道上保管・廃棄する機材のアイテム,個数,容量,重量,保管などの要求)を提出し,国際間調整を通して承認を得ていく。打ち上げスケジュール変更に伴い,その都度修正が必要となる。
 宇宙実験に向けて多くの準備作業(文書作成・審査)があり,たくさんの実験運用関係者・支援者の協力を得て準備を進めている。