宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 130, 2008

一般演題

16. ビスフォスフォネート剤を用いた骨量減少・尿路結石予防対策に関する研究

大島 博1,中村 利孝1,2,郡 健二郎1,3,松本 俊夫1,4

1宇宙航空研究開発機構
2産業医科大学
3名古屋市立大学
4徳島大学

Bisphosphonate as a countermeasure to space flight induced bone loss and renal stone

Hiroshi Ohshima1, Toshitaka Nakamura1,2, Kenjiroh Kohri1,3, Toshio Matsumoto1,4

1Japan Aerospace Exploration Agency
2University of Occupational and Environmental Health
3Nagoya City University
4The University of Tokushima

長期宇宙滞在での最も重要な医学的課題の1つに,骨量減少と尿路結石がある。インクリメント18フライトに搭乗する日本人宇宙飛行士より宇宙実験開始を予定している「ビスフォスフォネート剤を用いた骨量減少・尿路結石予防対策に関する研究(代表研究者,松本俊夫,およびDr. LeBlancのダブルPI)」の宇宙実験にいたる経緯と研究概要を紹介する。
 JAXAは骨の専門家からなる骨量減少対策助言委員会(中村利孝委員長)を組織し「日本人宇宙飛行士の骨量減少・尿路結石対策」を検討した。その後,国際共同ベッドレスト研究で薬剤投与法の有用性を検証した。その結果をふまえ,第5回ライフサイエンス国際公募に応募(PI徳島大学松本俊夫教授)し採択され,宇宙医学のフライト実験として取り組むことを決めた。NASAも本研究課題を重要な研究と位置づけ,米国研究者(代表研究者Dr. LeBlanc)と同様な研究を推進し,日本側との共同研究を提案してきた。NASAとJAXAは,国際ライフサイエンス会合(ISSLS)の枠組みの下で,共同研究として実施することを決め,JAXA-NASA間で共同研究の合意書,共同実験に関わる役割・資金分担等の実施計画書,および手順の詳細を定めた実験計画書を作成し,日米間で合意した。研究計画の倫理委員会承認後,被験者に対する説明と同意取得,飛行前の医学データ取得を進めている。
 本研究は,骨粗鬆症治療薬として既に臨床効果のエビデンスがあるビスフォスフォネート剤をISS搭乗宇宙飛行士に対して予防的に投与し,飛行前中後の医学データ(骨量,骨マーカー,および尿路結石検査)をもとに,宇宙飛行の骨量減少と尿路結石形成への予防効果を検証するものである。被験者は,経口薬(アレンドロネート)の毎週投与,あるいは静注薬(ゾレドロネート)の飛行前1回投与のいずれかを選択する。本研究により,薬剤による骨量減少や尿路結石への予防対策法の確立が期待されている。経口薬投与による消化器症状や,静注薬投与による顎骨壊死や腎機能障害などの副作用発生を軽減するための対応策等について紹介する。