宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 129, 2008

一般演題

15. スペースシャトル飛行前後の日本人飛行士免疫系パラメーターの変化

松本 暁子1,大島 博2

1宇宙航空研究開発機構 宇宙飛行士健康管理G
2宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

Changes in immunological parameters after short-term spaceflight in Japanese crewmembers

Akiko Matsumoto1, Hiroshi Ohshima2

1Astronaut Medical Operations Group, Japan Aerospace Exploration Agency
2Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

[目的]
 宇宙飛行により人体は様々な医学生理学的影響を受け,免疫機能も低下することが報告されているが,その内容は必ずしも一定していない。又,これまでの報告は米ロの飛行士に関してのもので日本人のデータはない。そこで今回,日本人宇宙飛行士の健康管理及び将来の有人宇宙飛行のリスク軽減・生理学的対策の確立に役立てることを目的として,日本人飛行士の短期宇宙飛行前後の末梢血免疫系パラメーターの変動を検討した。
 [対象と方法]
 対象はNASAスペースシャトルに搭乗した日本人男性飛行士3名(平均年齢43歳)で,3回のミッションの平均飛行期間は12.7日間であった。これら3回のミッションにおいて,対象者より飛行前後に採血し,免疫系パラメーターを分析した。
 [結果] 
 リンパ球芽球化試験では,飛行前後で若干の変動が認められたが個人差が大きかった。白血球サブセット比率分析では,帰還時に顆粒球増加がみられた。又,帰還後CD4+が減少,CD8+が増加し,CD4+/CD8+比は3例全例で減少した。活性化・サイトカイン産生・memory/naive 各T細胞比率は,飛行前後でほとんど著変なしか,あっても一部に若干の変動が認められる程度であった。
 [考察] 
 白血球サブセット比率における帰還時の顆粒球増加は,過去の報告と同様で,帰還及び地上環境への再適応のストレスによる影響と考察された。CD4+/CD8+比の減少は,過去の報告とは逆の結果であり,今後の更なる検討を要すると考えられた。
 今回の結果は,過去の報告と同様の内容もあるし違う結果もあった。これはサンプル数が少なく個人差が大きく表れることと宇宙実験の煩雑さによる影響が大きいと考えられた。又,これらの変化は,微小重力や宇宙放射線等の宇宙飛行そのものによる直接的要因と,宇宙飛行に伴い生理的及び精神的ストレスを生じる様々な間接的要因による影響と推測されたが,変化は一過性であり現時点で健康上に大きな悪影響を及ぼす程度のものではないと考察された。しかしながら,免疫機能の低下は感染症の発症や腫瘍の進展等,特に長期宇宙飛行では大きな問題になりうることから,今後は飛行中も含めサンプル数を増やして検討し対策を講じることが望まれる。