宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 127, 2008

一般演題

13. 長期過重力負荷マウスにおけるGHおよびGHRH遺伝子発現の解析

下井 岳1,中川 雅行1,亀山 祐一1,桜井 智野風1,橋詰 良一1,岩崎 賢一2,伊藤 雅夫1

1東京農業大学生物産業学部
2日本大学医学部社会医学系衛生学分野

Analysis of GH and GHRH gene expression in mice under hypergravity environment

Gaku Shimoi1, Masayuki Nakagawa1, Yuichi Kameyama1, Tomonobu Sakurai1, Ryoichi Hashizume1,
Kenichi Iwasaki2, Masao Ito1

1Faculty of Bioindustry, Tokyo University of Agriculture
2Department of Social Medicine, Division of Hygiene, Nihon University School of Medicine

【緒言】 2 G環境下で継代育成したマウス(G負荷群)は,通常の1 G環境で育成したマウスと比較して体型が小型化することが示されている。これまでの研究で,我々は母獣の妊娠末期におけるプロラクチン分泌量の低下が,乳腺重量および泌乳量の低下を引き起こし,産仔が十分に乳汁を摂取できていないことを示唆してきた。一方,産仔の成長ホルモン遺伝子(Gh)の発現量について,55日齢でみられる発現量のピーク値がG負荷群で有意に低下することを明らかにしてきた。しかし,20日齢までの授乳期におけるGhの発現動態は明らかにされておらず,また,過重力負荷がGH産生の中枢である視床下部−下垂体にどのような機序で影響しているか明らかにされていない。そこで,本研究は授乳期を通したGhの発現について,さらにGHの上流にあるGH放出ホルモン遺伝子(Ghrh)の発現を明らかにすることで,長期の過重力負荷が視床下部−下垂体系に及ぼす影響について検証した。
 【方法】 2 G負荷環境下で継代育成(23世代)したICR系マウスをG負荷群,同室で通常飼育したマウスを対照群とした。両群それぞれ1,10,15および55日齢のGHおよびGHRH mRNA量についてReal time RT-PCR法を用いて定量した。マウスから下垂体および視床下部を摘出後,TRIzol法にてTotal RNAを抽出しDnase処理を施した。逆転写反応後,Real time PCRによる絶対定量を行いGhおよびGhrh発現量を測定した。いずれの遺伝子においても,ハウスキーピング遺伝子の一つであるGapdhのmRNA量との相対値を算出することで補正した。
 【結果・考察】 Real time RT-PCRによる定量の結果,G負荷群におけるGH mRNA量は1,10,15および55日齢でそれぞれ91.9±69.6,26.7±6.9,261.8±56.5,1,223.6±217.9 Copy(×107)であった。対照群ではそれぞれ196.2±33.3,66.8±38.2,406.3±46.9,6,678.7±1,590.5 Copy(×107)であり,全ての日齢でG負荷群のGH mRNA量は対照群より有意に低い値であった(P<0.01)。また,GAPDH mRNA量との相対値(Gh/Gapdh)で補正した結果,G負荷群では1,10,15および55日齢でそれぞれ1.3±0.8,0.9±0.3,1.3±0.3,0.3±0.1であり,対照群ではそれぞれ1.4±0.3,0.9±0.4,1.3±0.3,0.8±0.2であり,55日齢においてのみ両群間で有意な差が認められた(P<0.01)。Gh発現量で差がみられた55日齢についてGHRH mRNA量を両群で比較したところ,G負荷群および対照群でそれぞれ65.9±10.9,231.6±143.6 Copy(×102),Ghrh/Gapdhはそれぞれ0.2±0.1,0.5±0.2であり,G負荷群で有意に低かった(P<0.01)。
 本研究において授乳期のGh発現量に差は認められなかったものの,発現のピークを迎える55日齢においてG負荷群で対照群より有意に低く,以前報告したCompetitive RT-PCRによる定量結果と一致する結果が得られた。また,Gh発現に差がみられた55日齢においてGHの上流にあるGHRHも同様にGhrhの発現量はG負荷群で有意に低下していることから,長期の過重力負荷が視床下部−下垂体系のGH軸に作用し,GHの産生・分泌に影響を与えている可能性が示唆された。