宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 124, 2008

一般演題

10. 重力強度にともなう体液分布の変化

須藤 正道1,大平 充宣2,河野 史倫2,多田 章3,杉山 由樹4,野村 泰之5,肥田 和恵5,栗原 敏1

1東京慈恵会医科大学 宇宙航空医学
2大阪大学大学院医学系研究科 適応生理
3宇宙航空研究開発機構 SSTプロジェクト
4木戸病院 神経内科
5日本大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学系

Gravity-dependent changes in body fluid distribution

Masamichi Sudoh1, Yoshinobu Ohira2, Fuminori Kawano2, Akira Tada3, Yoshiki Sugiyama4, Yasuyuki Nomura5, Kazue Hida5, Satoshi Kurihara1

1Div. of Aerospace Med., The Jikei Univ. School of Med.
2Graduate School of Medicine, Osaka Univ.
3SST Project Unit, Japan Aerospace Exploration Agency
4Dept. of Neurology, Kido Hospital
5Dept. of Otorhinolaryngology, Nihon Univ. School of Med.

【はじめに】
 微小重力環境の実験として航空機を利用したパラボリックフライトが用いられている。しかし,微小重力環境を作るには急上昇による高重力,その後の微小重力,機首を立て直すための高重力と数分の間に重力が激しく変化する。このような重力が変化する環境で体液はどのような分布をとるのか,また20秒ほどの微小重力時には垂直方向の重力が0 G近くになるため,通常では感じられない前後方向,左右方向の重力の変動も大きく影響するようになる。しかし,このようは重力変化に対する体液分布の変化について詳しく検討した報告は少ない。そこでパラボリックフライトを行い,重力変化に伴う体液分布の変化を観察した。
 【測定方法】
 インピーダンスプレチスモを用い,胸部,腹部,大腿部,下腿部の4部位の体液量の指標となるインピーダンス値と,上下,左右,前後の重力値をパラボリックフライト中連続して記録した。
 今回は10回の飛行で115回のパラボリックフライトを行なったときのデータをもとに重力強度と体液分布について検討した。
 解析は1回のパラボリックフライトで微小重力フェーズとその前後合わせて3分間のデータを用いた。この3分間には水平飛行の1 G,高重力,微小重力,高重力,1 Gのデータが含まれる。
 被験者の体位は日を変えて,座位と臥位で測定した。臥位では機首方向に頭を向けた場合と足を向けた場合の測定をし,微小重力での頭から足(または足から頭)方向(機体の前後方向)にかかる重力の影響も検討した。
 【結果】
 微小重力から2 Gの重力強度の変化に対する体液移動は,座位では,重力が頭から足方向へ変化するため,重力と体液量は胸部では負の相関,腹部・下腿部では正の相関が見られ,大腿部では変化が見られなかった。大腿部で変化が見られなかった原因は,座位では大腿部は床面と水平になっているため,重力が垂直方向へ変化しても体液が移動しないためと考えられる。
 臥位の状態では,頭から足へかかる重力変化は少なく,胸から背中への重力変化があっても頭から足への体液移動は少なく,重力強度と体液量の相関は見られなかった。
 これらのことより,座位では頭から足方向への重力が変化するため,体液は重力強度に比例し上半身から下半身に移動することが示唆された。臥位では頭から足方向への重力変化が少なく体液は移動しなかったことが示唆された。つまり頭から足方向への重力変化が体液を移動させる要因となっていることが示唆された。