宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 123, 2008

一般演題

9. パラボリックフライトによるハイブリッド訓練装置の動作検証

吉光 一浩1,松垣 亨1,志波 直人2,稲田 智久3,田川 善彦3

1久留米大学医学部整形外科
2久留米大学リハビリテーションセンター
3九州工業大学機械知能工学科

Operation verification of a hybrid training device by parabolic flight

Kazuhiro Yoshimitsu1, Toru Matsugaki1, Naoto Shiba2, Tomohisa Inada3, Yoshihiko Tagawa3

1Department of Orthopaedic Surgery, Kurume University School of Medicine
2Kurume University Rehabilitation Center
3Department of Mechanical and Control Engineering, Kyushu Institute of Technology

はじめに: 我々は無重力空間における筋骨格系廃用予防の手段として,治療的電気刺激を応用した電気刺激収縮と自発筋収縮の混合運動であるハイブリッド訓練法を開発し,その有効性を報告してきた。今回,パラボリックフライトによるμG下で,宇宙空間での使用を前提にした装置を作製して本法を実際に行い,機器動作と運動の可否の検証を行った。
 方法: 被験者は36歳健常男性1名。ハイブリッド訓練用の刺激装置は,複数部位への同時ハイブリッド訓練が可能な出力20 ch,関節運動センサー入力8 chの電気刺激を新たに作製した。宇宙船内での使用も想定し電磁波対策等を行った。一人でハイブリッド訓練装置を装着可能とするために,ハイブリッド訓練装置を組み込んだ着衣を被験者用に作製した。ハイブリッド訓練の補助的機能のみならず,トレーニングウェアやアンダーウェアとしての機能も兼ね備えたものである。前述の刺激装置を制御するとともに指定した運動を実施するために,模範運動のモデルの運動と自身の運動をモニター上で対比させながら運動を行う事ができるバーチャルリアリティー(VR)システムを作製した。これらの装置を用いて,パラボリックフライトでの微小重力下でのハイブリッド訓練を検証した。訓練は膝関節屈伸運動のハイブリッド訓練とし,椅子座位で行った。パラボリックフライト中の,1 G,2 G,μGと重力が変化する間,連続して120秒間のハイブリッド訓練を行い,各G下での運動評価を行った。また,椅子に十分身体を固定した状態と固定しない状態,VRシステムによるモニター表示を利用した場合と利用しない場合の運動状態をそれぞれ比較した。
 結果: 14回のパラボリックフライトを行い,全ての回でハイブリッド訓練装置はμGをはじめとした変化するGにおいても正常に動作し,センサーは正しく運動状態を取得し電気刺激を行う事ができた。また,被験者は120秒間の膝屈伸運動を行う事ができた。身体固定を十分に行わなくとも,椅子座位による膝屈伸運動は可能であったが,短時間で変化するμGや2 Gといった経験のない重力下では模範運動との運動一致性の低下がみられ,各回の運動でばらつきが目立った。身体固定を行う事で運動の一定性は改善されたが,VRを利用する事で身体固定の有無に関わらず,模範運動との高い一致性をもって一定した運動が行う事ができた。
 考察: 今回作製したハイブリッド訓練装置は,μGでの使用が可能であった。μGでの椅子座位による膝屈伸運動について,身体固定は必ずしも必要でなかったが,VRが指定した運動の遂行に役立っており,これは経験のない重力環境下にあっても,VRによる視覚フィードバックが寄与したものと考えられる。今後は椅子座位でない場合のハイブリッド訓練法による運動方法や,運動部位以外への影響の検証を行いたい。