宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 122, 2008

一般演題

8. 模擬微小重力曝露後により生ずる体液移動への対抗措置の効果

櫻井 博紀1,2,岩瀬 敏2,菅屋 潤壹2,増尾 善久3,西村 直記2,山田 陽介4,太田 めぐみ5,福永 哲夫6,石田 浩司7,秋間 広7,片山 敬章7,清水 祐樹2,佐藤 麻紀2,Dominika Kanikowska2,鈴木 里美8
渡邉 順子9,平柳 要10,塩澤 友規11

1浜松大・保健医療学部
2愛知医大・医・生理第2
3早稲田大・スポーツ科学研究センター
4京都大・高等教育研究開発推進センター
5金沢星陵大・人間科学部
6鹿屋体育大
7名古屋大・総合保健体育科学センター
8愛知医大・看
9聖クリストファー大・看護
10日本大・医・社会医学
11青山学院大

Effects of countermeasure on headdown bedrest-induced body fluid shift

Hiroki Sakurai1,2, Satoshi Iwase2, Junichi Sugenoya2, Yoshihisa Masuo3, Naoki Nishimura2, Yosuke Yamada4, Megumi Ohta5, Tetsuo Fukunaga6, Koji Ishida7, Hiroshi Akima7, Keisho Katayama7, Yuuki Shimizu2, Maki Sato2, Dominika Kanikowska2, Satomi Suzuki8, Yoriko Watanabe9, Kaname Hirayanagi10, Tomoki Shiozawa11

1Hamamatsu Univ.
2Dept. Physiol., Aichi Med. Univ.
3Waseda Sport Science Research Center
4Center for the Promotion of Excellence in Higher Education, Kyoto Univ.
5Faculty of Human Sciences, Kanazawa Seiryo Univ.
6National Institute of Fitness and Sports, Kanoya College of Physical Education
7Institute Phys. Fitness and sports, Nagoya Univ.
8Sch. Nurs. Aichi Med. Univ.
9Sch. Nurs. Seirei Christopher Univ.
10Dept. Hygiene Nihon Univ. Sch. Med.
11Aoyama Gakuin Univ.

模擬微小重力曝露により起立耐性低下などの心循環系デコンディショニングが起こることが知られている。この心循環系デコンディショニングは,心機能低下,下半身の静脈キャパシタンスの変化および筋萎縮による筋ポンプ作用の減弱に伴う静脈還流量の低下など,各種要因が相互に作用して起こることが推測されている。本研究は,模擬微小重力曝露後の体液移動への対抗措置としての人工重力負荷と運動負荷の組み合わせ効果について検討した。模擬微小重力曝露として20日間の-6° のhead-down bed rest (HDBR)を2006年度,2007年度に行った。2006年度は男性12名を被験者とし,うち6名は対抗措置を行い(対抗措置群),残り6名は臥床のみを行った(対照群)。2007年度は男性8名を被験者とし,各群4名とした。1日の食事摂取は2,300 kcalとし,飲水量は前日の排尿量とした。対抗措置として,人工重力負荷とエルゴメーター運動負荷を行い,2006年度は対抗措置を毎日,2007年度は対抗措置を隔日で行った。BR前,およびBR後において,耐G試験(1 Gから漸増)およびtilt試験(30° 15分,60° 15分)を行い,その時の体液移動をセグメンタル生体電気インピーダンス法により,@ 上腕部+体幹上部,A 体幹中部(腹部),B 体幹下部+大腿部,C 下腿部に分けて部位別に測定した。また,MRIにより大腿四頭筋の断面積を計測した。有意差水準はp<0.05,傾向水準はp<0.2とした。耐G試験に対して,2006年度ではベッドレスト後では対照群は有意に低下したが,対抗措置群では有意な低下はみられなかった。2007年度においては,対抗処置群での低下はみられるが対照群より小さい傾向であった。体液移動に関しては,2006年度では起立試験に対して,体幹中部で対照群ではBR後で60° において有意にインピーダンス低下がみられたのに対し,対抗措置群では有意な変化はみられなかった。耐G試験では有意差はないが起立試験と同様の傾向を示した。2007年度においては,対抗措置群でも対照群と同様の傾向を示した。体幹中部以外の他の部位に関しては2006年度,2007年度ともに有意差はみられなかった。大腿四頭筋横断面積は,対照群ではBR後で有意に低下したが,対抗措置群では有意差はなかった。これらより,HDBRにより生じる耐G低下,体液移動,筋萎縮に対して,隔日の対抗措置では効果があまりみられず,毎日の対抗措置によって防止できたことから,対抗措置は毎日続ける必要があることが示唆された。