宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 115, 2008

一般演題

5. カヌー漕艇後に生じた上陸後症候群の1例

長谷川 達央

京都府立与謝の海病院 耳鼻咽喉科

Mal de Debarquement after canoeing

Tatsuhisa Hasegawa

Dept. of Otorhinolaryngology, Kyoto Prefectural Yosanoumi Hospital

輸送機関搭乗中に生じる動揺病に対して,上陸後症候群(Mal de Debarquement)は舟艇や航空機から下船した後より動揺感,不安定感を生じる症候群である。今回我々は,カヌー漕艇後に生じた上陸後症候群を経験したので報告する。
 症例は34歳男性で,めまい疾患を含め特記すべき既往歴はない。また動揺病の経験もない。約15年前よりカヌーを始め,長時間の漕艇後に毎回数時間の動揺感を自覚していたが放置していた。平成20年6月1日,カヌー漕艇後に動揺感が出現したため,6 月 10 日当院で診察をおこなった。診察時,動揺感は消失しており,明らかな眼振所見はみられなかった。9月14日4時間の漕艇後に動揺感を自覚し,有症時に平衡機能検査をおこなったが明らかな異常所見は認めなかった。
 上陸後症候群の発生機序については従来,舟艇や航空機搭乗中の動揺しない視覚情報と動揺している前庭感覚・体性感覚情報という不適合状態に適応したことにより,搭乗後の不適合のない平衡感覚刺激環境に適応障害を生じたものと考えられてきた。本症例はカヌーという視覚・前庭感覚・体性感覚間に不適合のない環境で生じており,別の発症機序の関与が示唆された。