宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 114, 2008

一般演題

4. 車酔いを抑制する車載ディスプレイの開発

中西 窓花1,森本 明宏1,2,辻 仁志1,井須 尚紀1

1三重大学 大学院 工学研究科
2パナソニック潟Iートモーティブシステムズ社

Development of onboard displays inhibiting the occurrence of carsickness

Madoka Nakanishi, Akihiro Morimoto, Hitoshi Tsuji, Naoki Isu

1Faculty of Engineering, Mie University
2Automotive Systems Company, Panasonic Corporation

1. はじめに
 車内でTV視聴を行うとTV視聴を行わない場合と比べ,動揺病不快感が約2倍に強まる。これは,TV注視により運動情報が視覚からは得られないことが原因である。そこで,自動車の運動情報を視覚から与えるように視運動刺激をTV映像に付加し,動揺病を低減しようと考えた。車の動きの大部分を占める前後加速度,遠心加速度,Yaw角速度を入力とした対策案を2種類考案し,不快感計測実験を行った。
 2. 対策案
 対策案1では,TV映像描画部分をYaw角速度に比例する角度に回転させた。そして,前後加速度に比例する速さで前後フローする映像と,遠心加速度に比例する速さで水平フローする映像を重畳して映像描画部分の周囲に描き,背景とした。対策案2では,前後加速度に応じて背景映像をピッチ方向に傾斜及び上下移動させると同時に,遠心加速度に応じてロール方向に傾け,Yaw角速度に比例する速さで水平フローさせた。
 3. 実験方法
 被験者は20歳前後の健康な男性24名,女性11名の計35名で,総試行数は 84 回であった。被験者に対し,実験の主旨・内容,手順,評価方法の十分な説明を予め行い,書面による承諾を得た。
 実験車両には4列シート10人乗りのハイエースを使用し,2〜4列目に最大5人の被験者を座らせた。1回の実験で,1周約3分のカーブの多い山道を7周,計21分間走行した。その間,対策案1,対策案2,対策なし,視聴なしの計4種類のうちのいずれかの条件でTVを視聴させた。TVの表示部分の大きさは横24.3 cm,縦13.7 cmで,解像度は800×480であった。また,被験者からTVまでの距離は平均60 cmで,水平視角は23° であった。音源には車内後方上部に設置した2台のスピーカーを用いた。
 走行前10分と5分,走行開始から1分毎に不快感の強度を0〜10の11段階で被験者に答えさせた。その際,「0」は不快でない通常の状態,「10」は嘔吐直前の受忍限界状態を表すものとした。評定尺度法による主観的評価の結果を,範疇判断の法則に基づいて距離尺度化した。
 4. 結果
 全ての条件において,不快感が時間に比例して増大した。そこで,不快感を直線近似し,走行開始後の回帰直線の傾きを求めた。対策なし条件の傾きが最も大きく,対策案1,対策案2,対策なしの順に小さくなった。対策なしの時の不快感を,視聴なしの時の不快感まで抑えた時を改善率100% とすると,対策案1は32%,対策案2は74% の改善率となった。対策案1では前後加速度,遠心加速度,Yaw角速度の3入力を用いて,それぞれ個別の映像を動かして重畳したが,対策案2では1つの背景映像を動かしたため,統合された運動感覚が誘起されやすく,より顕著に動揺病を低減できたと考えられる。