宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 113, 2008

一般演題

3. 横揺れ時の乗り心地に視覚が与える影響

辻 仁志1,小川 博也1,河合 俊岳2,井須 尚紀1

1三重大学大学院工学研究科
2株式会社 本田技術研究所

Effects of Vision on Riding Comfort in a Rolling Vehicle

Hitoshi Tsuji1, Hiroya Ogawa1, Toshitake Kawai2, Naoki Isu1

1Graduate school of engineering, Mie University
2Honda R&D Co., Ltd. R&D Center

 1. はじめに
 乗り物の運動・振動特性と運転者の感覚や乗り心地との関係を解明することが本研究の目的である。車の前席からは車外の景色や車内の装備が見えるが,車の動きに伴って車外と車内の視界は異なる動きをする。また,車台-シート間の相対運動のため,身体運動と車内視界の間には振幅差,位相差が生じる。この環境を再現し,頭部運動や運動感覚,乗り心地の計測を行い,視覚がどのように関与するかを解析した。
 2. 実験方法
 被験者は20歳前後の健康な34人で,十分な説明と書面による同意を得てから実験を行い,試行回数は56回であった。実験は三重大学大学院工学研究科実験倫理委員会の承認の下に実施した。
 2.1. 実験システムおよび刺激
 4台のコンピュータと4台の液晶プロジェクタを用いて,偏光用の大型スクリーンに3D映像を投影した。このスクリーンから約3.3 m離れた位置にモーションベースを設置した。偏光メガネを装着させた被験者を座らせ,3D映像を注視させた。また,ヘッドフォンを装着させ,走行感のある音楽を聞かせた。
 被験者をモーションベースに座らせ,身体運動刺激として周波数0.2 Hzの余弦波状にロール回転を40秒間与えた。また,3種類の映像(車内視界,車外視界,車内外視界)および映像なしの視覚刺激を身体運動刺激と以下のように組合せた。なお,車内視界の映像は身体運動刺激と同振幅で40秒間,正弦波状に回転させた。車外視界映像との組合せは正弦波状回転の振幅が2.1〜10.4 degの5種類,車内視界映像との組合せは振幅8.3 degで車内視界映像-身体回転間の位相差が-135〜180 degの8種類,車内外視界映像との組合せは振幅6.2〜10.4 degの3種類で車内視界映像-身体回転間の位相差が上記と同じ8種類の24種類,映像なしで身体回転のみの刺激は振幅8.3 degの1種類とし,計38種類の刺激を用いた。
 2.2. 計測手順
 揺れの大きさ感覚の基準値10となる刺激(閉眼で振幅8.3 degの身体運動刺激)を与えて,揺れの大きさの感覚を記憶させ,各試行で感じる揺れの大きさを,相対値で答えさせた。また乗り心地を,無刺激時を0とし,-3 (不快)〜+3 (快適)の7段階に評定評価させた。なお,ヘッドギアに取付けた振動ジャイロ姿勢センサを被験者頭部に装着して,被験者の頭部運動を計測した。
 3. 実験結果
 いずれの振幅でも身体回転刺激よりも大きな頭部運動の振幅が得られた。車外視界映像付加と映像なしの効果を比較すると,車外視界映像が与えられると頭部運動は減小した。また,車内視界-身体回転刺激間の位相差が変化しても揺れの大きさの感覚に相違が見られなかった。一方,回転の振幅が小さいほど乗り心地は良く,振幅が大きいと乗り心地が低下した。また,車内視界-身体回転間に位相差があると乗り心地が低下し,特に位相遅れで与えられると,乗り心地の低下が大きい傾向が見られた。