宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 115, 2008

一般演題

1. 音環境が視覚性動揺病に及ぼす影響

小川 博也,井須 尚紀

三重大学工学部

Effects of Acoustic Environment on Visually-Induced Motion Sickness

Hiroya Ogawa, Naoki Isu

Faculty of Engineering, Mie University

1 はじめに
 3次元立体映像に様々な音を付加して視聴したとき自己運動感覚,臨場感,不快感にどのような影響を与えるかを検討した。
 2 実験方法
 被験者は健康な男女19名とし,実験回数は62回,試行回数は1,736回であった。付加する音が異なる7種類の刺激をランダムな順で提示し,1つの刺激は45秒,刺激と刺激の間には20秒の評価時間を設けた。1セットで8つの刺激を提示し,1回の実験で4セット行った。セット間には160秒の休憩をおいた。評価方法にはScheffeの一対比較法を用い,3つの評価項目(自己運動感覚,臨場感,不快感)について,連続して提示した2つの映像を比較して,強弱の差を5段階で評価させた。
 2.1 実験システム
 偏光眼鏡をかけさせた被験者をスクリーンから2〜3メートル離れた位置に座らせ,パーソナルコンピュータ4台とプロジェクタ4台を用いて偏光用スクリーンに投影した3次元映像を視聴させた。音像は7.1 chスピーカを用いて音源物体の位置を視聴者が特定できるよう再現した。
 2.2 実験映像 仮想空間の室内に4つの固定された発音物体(掃除機,やかん,目覚し時計,電話)を室内の中心から半径約3 mの円周上に置いた。撮像画角120度の視点が室内の中心から半径約5 mの円周上を,中心を向いてroll回転しながら室内を水平回転移動する3次元回転映像を作成した。映像のみ(無音),音源が映像オブジェクトと同一位置,音源が視点の回転中心に固定,音源が視点の回転中心に対して点対称の4種類と,映像と関連のない音源(音楽,騒音,ノイズ)が視点の回転中心に固定されたもの3種類の計7種類の刺激について,自己運動感覚,臨場感,不快感の比較を行った。
 3 実験結果
 音源が映像オブジェクトと一致して動く場合には,音源が固定されている場合に比べ,不快感に差はなかったが自己運動感覚,臨場感は強かった。一方,音楽を付加した映像ではある程度の自己運動感覚を維持しつつ不快感が低かった。これらから,動きの激しい映像を作成する際には,映像中に点音源を置き,映像と一致した音の動きを加えることで,自己運動感覚や臨場感を強く与えつつも不快感を抑えることが出来ると考えられる。不快感の抑制が更に必要な場合には,音楽の付加によって自己運動感覚の低下を抑えつつ不快感を最小限に留められると思われる。