宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 2, 37-49, 2008

総 説

宇宙食

松本 暁子

宇宙航空研究開発機構 宇宙飛行士健康管理グループ・宇宙医学生物学研究室

Space Food

Akiko Matsumoto

Astronaut Medical Operations Group and Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)

ABSTRACT
It has been more than 40 years since the first human flew into space. As development of manned space programs has enabled humans to stay in space longer, space food systems also have been improved and the role of space food has changed over the years. Space food is no longer an uninspiring source of nutrition that allows astronauts to survive in space. It is an important factor in the quality of life in space, especially long duration missions such as in the International Space Station (ISS).
 ISS space food has been produced and provided by the US (NASA) and the Russian (FSA) space agencies, but a recent protocol among ISS space agencies set up future provision of space foods by ISS international partners such as the Japanese (JAXA), the European (ESA), and the Canadian (CSA) space agencies. Space foods from home countries would have psychological advantages for astronauts in maximizing their abilities in performing tasks during space missions. For international crewmembers, adding varieties of new space food items from other countries would also promote cultural exchange. Thus, JAXA has developed Japanese space food for ISS missions and certified the first series of “JAXA space foods”.
 Japanese food is internationally known as healthy food that contributes to world-leading Japanese longevity.  We therefore hope to contribute to the ISS program through introducing JAXA space food, in which we made use of advanced Japanese food technology and the beneficial properties of traditional Japanese food.

(Received: 12 September, 2008 Accepted: 24 September, 2008)
Key words: space food, spaceflight, nutrition, Japanese food, International Space Station
 
I. はじめに
人類の宇宙開発は過去約半世紀にわたって,飛躍的な進歩を遂げてきた。今から47年前の1961年4月,旧ソ連のVostok 1号に搭乗したYuri Gagarin飛行士は人類として初めて宇宙空間に飛び出した。1969年には米国のNeil Armstrong船長率いるApollo 11号が人類初の月面着陸という偉業を成し遂げたが,その後は1980年代まで米国と旧ソ連の競争が中心となって宇宙開発をリードしてきた。1984年には米国より国際宇宙ステーション(International Space Station: 以下ISS)計画が発表され,我が国も参加することになった。1993年には,それまで米国とライバル関係にあったロシアも参加協力することを表明した。現在では,米航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration: 以下NASA),ロシア連邦宇宙局(Russian Federal Space Agency: 以下FSA),日本の宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: 以下JAXA),ヨーロッパ諸国が参加する欧州宇宙機関(European Space Agency: 以下ESA),カナダ宇宙庁(Canadian Space Agency: 以下CSA)の5つの国際宇宙機関を主導とした計15カ国の国際プロジェクトとしてISSが建設中であり,2008年3月には日本の実験棟(Japanese Experiment Module: JEM)「きぼう」の第一便が打ち上げられた。今後,残りの「きぼう」モジュール打ち上げと日本人飛行士初のISS長期滞在が予定されている。
 人間の基本的生活要素となる衣・食・住のうちの大きな柱である食事が,身体面・精神面に与える影響は非常に大きい。当たり前のことであるが,人間は食べなければ生きていくことはできない。宇宙で暮らす場合でも同様であり,食事は特に重要である。宇宙開発は,1960年代より推進されてきたが,これまでの宇宙飛行において宇宙滞在時間が長くなるにつれて,“宇宙で食べる” 必要も生じ,過去の宇宙計画や飛行経験とともに宇宙食も進歩を遂げてきた。
 さらに,宇宙という特殊な環境下で人体は様々な医学生理学的影響を受けることが明らかになり,ライフサイエンス研究も重要視され,宇宙での代謝栄養学的研究も行われてきた。飛行士の医学管理上も,そして,宇宙で業務を忙しくこなす傍らの楽しみ・くつろぎの手段としても宇宙食は重要な役割を果たしている。
 ISSでの医学運用や宇宙医学的問題への対策法の検討は,国際宇宙機関による多数者間医学運用パネル(multilateral medical operations panel: MMOP)において行われているが,栄養管理や宇宙食については,同パネルの栄養ワーキンググループ(nutrition working group: NWG)が担当しており,関連する様々なテーマにつき国際間で検討・調整する。現在のISSでは主として米国及びロシアが宇宙食を製造・供給しているが,我々は以前からMMOP-NWGにおいて,日本人飛行士のISS滞在予定をふまえ,今後は日本からも宇宙食を供給できるよう働きかけてきた。こうした国際調整の結果,2004年,ISS宇宙食についての合意文書 “ISS FOOD PLAN” が制定され,米ロ以外のISS国際パートナー(JAXA,ESA,CSA) からも今後,宇宙食を供給する枠組みが整った。一方,国内においては,ISSに滞在する飛行士に日本食を食べさせたいとの考えから,JAXAでは “宇宙日本食” の開発に関わる検討を2001年(平成13年度)より開始していたが1),その後宇宙日本食の本格的開発に着手し,2007年,第一弾JAXA宇宙日本食として28品が認証された。そこで,本稿では,宇宙食の概要と “宇宙日本食” 研究開発について述べたい。
 
II. 宇宙食とは
 A. 宇宙食の歴史

宇宙空間で初めて食べ物を口にしたのは1961年8月Vostok 2号に搭乗した旧ソ連のGerman Titov飛行士であった。その後の1962年2月,NASAのMercury計画において米国人として初めて軌道上を飛行したJohn Glenn飛行士は,Atlasロケットで打ち上げられたMercuryカプセルに搭乗し,宇宙空間で食事をした。その時の食事内容は,アップルソース,ビーフグレービー,野菜ペーストであったが,これらはすべてアルミチューブに入っており,食器を使用することはなかった。ちなみに,女性で初めて宇宙で食事をとったのは,1963年6月,Vostok 6号に搭乗し世界初の女性宇宙飛行士となった旧ソ連のValentina Tereshkova飛行士であり,約3日間宇宙に滞在した。
 NASAのMercury計画(1962-63)では,チューブに入った簡単な宇宙食であったが,続くGemini計画(1963-68)では一口サイズ食品・中間水分食品・乾燥食品が登場し,Apollo計画(1969-72)では,お湯が使用されるようになり温かい食事が可能となった。又,温度安定化食品はApollo 8号から登場した。Skylab計画(1973-74)では加水食品・温度安定化食品・自然形態食品・凍結乾燥食品・放射線照射食品が供給され,Space Shuttle計画(1981-)では,市販食品を搭載するようになり宇宙食の種類も増えた。このように,地上の日常生活での食品にできるだけ近い形の宇宙食が考えられるようになり,食事の持つ栄養供給以外の役割も大きくなっている。さらに,ISS計画(1989-)が始まって以来,米ロが半々,原則それぞれの国の宇宙食を自国飛行士に供給する体制をとってきたが,前述したように,今後は米ロ以外の国際パートナー機関の飛行士がISSに長期滞在するのをふまえ,日本・ヨーロッパ諸国・カナダからも宇宙食を供給する取り決めを行った。以前にもSpace Shuttleミッションでは,そのミッション限りのイベントとして,例えば日本人飛行士であれば和風の食品をボーナス食として宇宙に持っていったことがあったが,上記の取り決めは,今後,正式なISS宇宙食メニューとして搭載するという趣旨である。当面は,自国の飛行士向けになるが,実際に宇宙で食事する際,クルー同士で交換したり,宇宙食による国際交流も行われるであろう。そのうちに他国クルーからの要望がでて定常的に供給できる体制が整えば大変望ましい。このように,宇宙食も国際化することで,食品のバラエティが増えることにより,栄養面のみならず精神面でも好ましい効果をもたらし,飛行士のパフォーマンス向上そしてミッションの成功に貢献することが期待される。
 B. 宇宙食の種類
これまで,宇宙食を定常的に製造供給してきたのは,米国とロシアである。現在の宇宙食は,以下のような種類に分類されている。
 1. Rehydratable Foods (R)
   いわゆるフリーズドライ食品である。Space ShuttleやISSには,加水装置があり,水かお湯を注入し,もどして食べる。飲料(Beverage: B)は,すべてこのタイプであり,粉状になっているものを宇宙で加水(湯)して,専用ストローで飲む。
 2. Thermostabilized Foods (T)
   温度安定化食品といい,レトルト食品または缶詰がこれにあたる。おかず類はこのタイプが多く,そのままか,オーブンで加温して食べる。
 3. Natural Form Foods (NF)
   自然形態食品という。代表はお菓子類で,調理せずそのまま食べる。
 4. Intermediate Moisture Foods (IM)
   中間水分食品という。代表はドライフルーツで,調理不要である。
 5. Irradiated Foods (I)
   放射線殺菌食品をさす。米軍関係の機関が開発した肉類食品で,現段階では,米国のみが製造している。
 6. Fresh Foods (FF)
   生鮮食品である。例として果物,野菜スティックなどがある。飛行士には人気があるが,常時あるわけではなく,Space ShuttleやProgress等によって補給され,数日以内に消費される。
 7. Condiments (C)
   調味料をさす。ケチャップ,マヨネーズ,マスタード,チリソースなどがある。塩・コショウは液状にして小さい容器に入っている。
 飲料に関しては,各種ジュース類や紅茶,コーヒーなど,様々な種類を宇宙で飲むことが可能になっているが,ビールやワインなどのアルコール飲料は宇宙食には認められていない。又,炭酸飲料も宇宙の微小重力環境下では微細な気泡とならないため,宇宙食としては不適とされている。
 生鮮食品としては,りんご,バナナ,オレンジ,にんじん,セロリスティック等が過去に搭載されたが,バナナは時間が経過すると皮が悪臭を放つとのことで用いられなくなった。
 その他,米国や日本の科学博物館などでは,フリーズドライ化した宇宙食アイスクリームがおみやげとして販売されているが,実際にアイスクリームが搭載されたのは1968 年Apollo 7号の時だけで,現在の宇宙食メニューには存在しない。
 C. 宇宙食の特殊性
これまでの研究開発により宇宙食もめざましく進化し,現在では様々な食品を宇宙で楽しむことができるようになったが,宇宙食ならではの特殊性及び条件もある。
 1. 衛生基準
近年,国内でも食品の安全性について大きくとりあげられているが,食品の衛生管理目的で導入されたHazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) は,そもそも1970年代にNASAの宇宙食製造から生まれた概念であり,宇宙で食中毒等が発生するのを防ぐ目的であった。宇宙でクルーが集団食中毒になったら,ミッション全体が台無しになりうるわけであるから,宇宙食に厳しい衛生基準が要求されるのは当然のことである。食品の製造施設についても衛生管理体制の基準を満たす必要がある。
 現在,原則として,宇宙食は打ち上げ機関(現状ではNASAまたはFSA)の要求する衛生基準に従うことになっている。例えば,NASAを介して宇宙食を供給する場合,商業的殺菌がされている宇宙食とそうでない宇宙食によって検査や基準が異なる。ここでいう “商業的殺菌がされている” 食品とはいわゆるThermostabilized Foods (レトルトや缶詰) のことであり,一般細菌数及び包装完全性検査(目視及び減圧試験)が行われる。それ以外の宇宙食(Rehydratable Foods等)では,一般細菌数・大腸菌群・コアグラーゼ陽性ブドウ球菌・サルモネラ菌・酵母及び真菌数について基準が設けられており,個々の食品によって,さらに検査項目が若干異なることがある。
 2. 保存性
過去のSkylabミッションでは冷凍食品が用いられたこともあったが,現在のISSには食品用の冷蔵庫や冷凍庫は存在しないので,常温で長期保存できることが現時点での宇宙食の条件となっている。食品の輸送などにかかる期間も含め,Space Shuttleでは最低9ヶ月,ISSでは最低1年の賞味期間が必要である。従って,JAXAでは,宇宙日本食の認証のために,1年間の食品保存試験を要求している。又,輸送中に温度変化,圧力変化,振動などにさらされる可能性もあるため,食品の保存試験において,そういった環境変化の条件下でも食品としての衛生性,栄養性,嗜好性に問題が生じないことが確認される必要がある。
 3. 形状他
まず第一に,微小重力環境下で散乱し,機器に悪影響を及ぼしたり飛行士の眼に入ったりしうる “食べかす”が出ないことが重要である。従って,クッキーなどは一口サイズのものが多い。同様に,水分が散乱するのも問題なので,ストローで直接口に入る飲料を除いては,水分を含む食品(煮汁やソースなど)には若干の粘度(とろみ)が必要になる。さらに,先にも述べたが,食べ残しが臭うものは望ましくない。においの感受性は個人によって様々であり,ある人にとっては問題なくても他の人にとっては苦痛となって食欲に悪影響を及ぼしかねない。従って,閉鎖空間で集団生活を行う以上,一般ににおいの強烈な食品は避けられる。その意味からも,ミッションを同じくするクルーは地上で一緒に試食会を行い,自分だけでなく他のクルーが食べる食品も事前に確認している。
 4. パッケージ
食品の中身だけでなく,パッケージも宇宙食の大きな特徴である。食品の包装材やそれについているラベル,インク,染料,のり等,宇宙船に持ち込まれるものについてはすべて,オフガス試験を行い,有毒ガスを発生しないことを確認する必要がある。従って,食品ごとに異なるパッケージを使うより,すでにこれらの試験に合格した包装材で食品をパックするほうが効率的であり,NASA,FSA,そしてJAXAでも宇宙食専用のパッケージを開発している。NASAでは市販食品を使うことも多く,食品の内容によって中身を宇宙食用パッケージで再包装している。又,宇宙食パッケージは搭載時に使用する食品コンテナーや,Space ShuttleやISSのオーブンにあったサイズであること,加水する場合には宇宙での加水器に合致したアダプター等があることが必要である。下記にも述べるが,宇宙では,パッケージそのものが食器の代用にもなる。
 5. 宇宙での調理・摂食方法
宇宙船の搭載量制限上,宇宙食にはRehydratable Foods(フリーズドライ食品)が多く存在するが,Space ShuttleやISSには加水装置があり,食べる前に水かお湯を加えるようになっている。お湯といっても沸騰湯ではなく,80℃程度であり,量としては25 mlの倍数で最大200 mlである。アダプターから加水(または湯)し,食品をもどしたあと,パッケージの末端をはさみで切りスプーンやフォークで中身をすくって食べたり,飲料は専用ストローをつけて飲む。一方,Thermostabilized Foods(レトルトや缶詰)は,Space ShuttleやISSに設置してあるオーブンで加温(80℃程度)して食べることができる。現在のISSには冷蔵庫,冷凍庫,電子レンジは存在しない。
 食器としては,主にスプーン,フォークを使い,特に柄の長いスプーンは中身をすくって食べるのに便利である。宇宙日本食等,メニューによっては箸も使用可能であろう。尚,スプーンやフォークなどは使い捨てではなく,食後ふき取って再利用する。一方,パッケージから直接飲食することになるので,コップや皿類はない。しかし,複数の食品をのせられるトレーがあり,それぞれの食品のパッケージについているベルクロテープでトレーにとめておくことにより,各食品が空間を浮遊することを防ぐ。
 6. 船外活動 (Extravehicular activity: EVA) 時の宇宙食
人類が初めて地球の外,かつ宇宙船の外で飲食したのは,Apollo計画でのことである。Apollo計画では,飛行士が月表面で活動する際,船外活動用の宇宙服を着るため,手をつかって飲食することはできなかった。従って,宇宙服の内部に,約240 mlの飲料につながった弁つきチューブを口のそばにおき,弁を噛んで操作することで手を使わずに飲料を飲むようにした。Apollo 14号において,初めて飛行士がこのディスペンサーから水を飲んだ。その後,月表面を活動した飛行士に不整脈がみられたことから,食事中のカリウム摂取を増量すべきという話になり,Apollo 16号では,水の代わりにカリウムを添加したオレンジジュースになった。しかし,飛行士が月面で活動中,偶然に弁が開いてしまい,オレンジジュースが飛行士の顔や髪の毛がかかってしまった。特にそれ以上のトラブルは発生しなかったものの,以降は水以外は使用されなくなった。
 一方,固形物としては,フルーツバーが宇宙服内部の胸の近くに位置し,頭を下に向けると口に届き噛めるようになっていた。この宇宙服内のフルーツバーは約165 kcalで,Apollo以降,初期のSpace Shuttle計画まで使われたが,実際には食べにくく,あごについてべたついてしまい,EVA中に食べることはほとんどなかった。むしろ,EVA前のprebreathing (減圧症の予防のために酸素を吸入して体から窒素を洗い出す操作)に時間がかかるので,その際にエアロックで食べることが多かった。そして,その後は宇宙服内部の宇宙食は使用されなくなった。
 将来の惑星ミッションでは,船外活動時間が長くなることから,宇宙服を着用しながらの食事(宇宙食,摂取方法)について,今後,再検討される必要があろう。
 D. 宇宙での栄養摂取
食事は健康状態に直接影響を及ぼすため,宇宙での栄養摂取に関しては,宇宙医学生理学の知識をふまえ考察することになるが,その詳細については別論文2) にまとめたので参照されたい。
 現在,長期宇宙滞在時の1日の栄養摂取基準 (360日までのISSミッション)が定められており,宇宙食摂取によってこの基準を満たすことが必要である。これまでのSpace Shuttle等による短期飛行では,ミッション中,健康状態を維持し,毎日食べている限り,栄養状態が急に悪化することは考えにくかったが,宇宙滞在が長期になると栄養状態に変化が生じてくることが報告されている9−10)。長期宇宙滞在における栄養代謝の変化はまだ十分には明らかにされておらず,有人宇宙飛行にとって今後の大きな検討課題の一つである。
 E. 国際宇宙ステーション時代の宇宙食
現在建設中のISSには,主として米国・ロシアの飛行士が常時3人滞在しており,ISSでの宇宙食は両国が半分ずつ製造供給することになっていた。しかし,これまで米ロ以外の国の飛行士は “ゲスト” としての立場であったものが,今後は “パートナー” としてISSに参加することになり,前述したように,我々JAXAがMMOP-NWGで積極的に働きかけたのをきっかけに,ESA,CSAも追随し,宇宙食についても国際化の方向に進むことになった。長期間,自分の家を離れて暮らすことになれば,故郷をなつかしく思い,自分の国の食べ物を宇宙でも食べたいと思うのは,どこの国の飛行士も同じであろう。
 また,ISSでの長期滞在時には,食事に関して,Space Shuttleなどの短期ミッションと異なる捉え方をする必要性も出てくる。すなわち,生存するための栄養補給という意義だけではなく,食べることでおいしいと思い,気持ちが和らぐ,といった精神心理的側面,嗜好的側面も宇宙飛行士のパフォーマンス向上のために重要視される。
 現在,ISSでは,1日に3回の食事と1回のスナックを食べることになっている。飛行士はかなり前から試食会を行い,自分が宇宙で食べたい食品をメニューリストから選択し,宇宙での栄養摂取基準を満たすよう栄養学的評価を経てメニューが調整される。この一連のステップは,ただ食品を選ぶということだけでなく,宇宙で食べる食品に慣れておく意味でも重要で,最終的な個人メニューができるまでは何ヶ月も要する。一般に,地上で食べて好きだった宇宙食については,飛行士は宇宙でもおいしいと感じるといわれている。Table 1にISSクルーのサンプルメニュー6) を示す。これをみると,1回の食事で複数の食品を食べることがわかる。いわゆる一品ものではなく,各食品量は少なめでいろいろな種類の食品を食べることにより,全体として栄養バランスがとれるようになっている。又,ISS開始当初は6日ごとにメニューを繰り返していたが,その後8日ごとになり,Expedition 8からは10日おきになっている。今後,さらに宇宙食メニューが増えればサイクルは延びる。飛行士からは,短期間でメニューが繰り返されると飽きるという意見があるが,その点も今後改善されるであろう。

Table 1. Sample Daily Menu in ISS
Meal 1
Meal 2
Meal 3
Meal 4
Day 1 Cottage Cheese w/Nuts (R)
Russkoye Cookies (NF)
Apple-Apricot Juice (R)
Tea w/ Sugar (R)

Jellied Pike Perch (T)
Peasant Soup (R)
Pork w/Lecho Sauce (R)
Wheat Bread Enriched (IM)
Kuraga (IM)
Apple-Black Currant Juice (R)
Meatloaf (T)
Mashed Potatoes (R)
Carrot Coins (T)
Pineapple (T)
Candy Coated Chocolates (NF)
Tea w/Sugar (B)
Chicken Salad (R)
Crackers (NF)
Orange-Pineapple Drink (B)

Day 2 Waffle (NF)
Sausage Pattie (R)
Granola (R)
Orange Drink (B)
Tomato Basil Soup (T)
Chicken Teriyaki (I)
Macaroni & Cheese (R)
Strawberries (R)
Cashews (NF)
Lemonade (B)
Cottage Cheese/Nuts (R)
Pork w/Potatoes (T)
Borodinskiy Bread (IM)
Honey Cake (NF)
Visit Cracker (NF)
Peach-Apricot Juice (R)
Currant Tea w/Sugar (R)
Sweet Almonds (NF)
Hard Chocolate (NF)
Grape-Plum Juice (B)
Day 3 Cottage Cheese/Apple puree (T)
Buckwheat Gruel w/Milk (R)
Apples w/Nuts (IM)
Apple-Peach Juice (R)
Tea w/Sugar (R)
Pike Perch in Baltika Sauce (T)
Pureed Vegetable Soup (R)
Beef Goulash (T)
Mashed Potatoes w/Onions (R)
Wheat Bread Enriched (IM)
Apple-Black Currant Juice (B)
Currant Tea w/Sugar (B)
Grilled Pork Chop (T)
Cornbread Dressing (R)
Candied Yams (T)
Berry Medley (R)
Lemonade (B)
Peanut Butter (T)
Crackers (NF)
Lemonade (B)
Day 4 Oatmeal w/Brown Sugar (R)
Dried Pears (IM)
Almonds (NF)
Orange Juice (B)
Beef Stew (T)
Tomatoes & Artichokes (R)
Wheat Flat Bread (NF)
Peaches (T)
Shortbread Cookies (NF)
Orange-Grapefruit Drink (B)
Beet Salad (R)
Meat w/Vermicelli (T)
Wheat Bread Enriched (IM)
Prunes Stuffed w/Nuts (IM)
Strawberry Tea w/Sugar (R)
Vostok Cookies (NF)
Sweet Almonds (NF)
Peach-Apricot Juice (B)
Day 5 Cottage Cheese/Nuts (R)
Chopped Pork w/Eggs (T)
Visit Cracker (NF)
Apricot Juice (R)
Tea w/Sugar (R)
Appetizing Appetizer (T)
Borscht w/Meat (R)
Meat w/Barley Kasha (T)
Wheat Bread Enriched (IM)
Apple-Plum Bar (IM)
Peach-Black Currant Juice (R)
Tea w/Sugar (R)
Fiesta Chicken (T)
Corn (R)
Dinner Roll (NF)
Cherry Blueberry Cobbler (T)
Lemonade (B)
Chicken-Pineapple Salad (R)
Crackers (NF)
Brownie (NF)
Lemonade (B)
Day 6 Oatmeal w/Raisins (R)
Breakfast Sausage Links (I)
Applesauce (T)
Orange-Mango Drink (B)
Potato Soup (T)
BBQ Brisket (I)
Teriyaki Vegetables (R)
Peach Ambrosia (R)
Bread Pudding (T)
Orange Drink (B)
Bream in Tomato Sauce (T)
Chicken w/Rice (T)
Wheat Bread Enriched (IM)
Quince Bar (IM)
Apricot Juice (R)
Tea w/Sugar (R)
Russkoye Cookies (NF)
Apples w/Nuts (IM)
Peach-Apricot Juice (R)
Day 7 Chopped Pork w/Eggs (T)
Mashed Potatoes (R)
Wheat Bread Enriched (IM)
Russkoye Cookies (NF)
Peach-Black Currant Juice (R)
Spiced Pike Perch (T)
Kharcho Mutton Soup (R)
Beef w/Vegetables (T)
Borodinskiy Bread (IM)
Apple-Apricot Juice (B)
Green Tea w/Sugar (B)
Shrimp Cocktail (R)
Chicken Fajitas (T)
Tortillas (NF)
Red Beans & Rice (T)
Apples w/Spice (T)
Lemonade (B)
Peanut Butter (T)
Crackers (NF)
Fruit Cocktail (T)
Lemonade (B)
Day 8 Vegetable Quiche (R)
Cinnamon Roll (NF)
Trail Mix (IM)
Pineapple Drink (B)
Hot & Sour Soup (T)
Sweet & Sour Pork (T)
Shrimp Fried Rice (R)
Pears (T)
Butter Cookies (NF)
Orange-Mango Drink (B)
Cottage Cheese w/Nuts (R)
Tokana Meat & Vegetables (T)
Borodinskiy Bread (IM)
Kuraga (IM)
Apricot Juice (R)
Tea w/Sugar (R)
Hazelnuts (NF)
Visit Crackers (NF)
Apple-Peach Juice (R)
  R: Rehydratable, T: Thermostabilized, NF: Natural Form, IM: Intermediate Moisture, I: Irradiated, B: Beverage



 1. NASA宇宙食
NASAの宇宙食(Fig. 1に例を示す)には,短期ミッション(Space Shuttle用メニュー)と長期ミッション(ISS用メニュー)用の2種類があり,2007年12月現在,それぞれ181種,199種の食品がメニューに載っている。2つのメニューリストは若干異なっており,ISSではメニューに各種パンがのっており,欧米人にとっての主食であることから,長期滞在時における主食の重要性が伺える。又,米国にはベジタリアンも多くいるが,飛行士も例外ではなく,ベジタリアン用の食品メニューもある。
 メニューリストは,新規宇宙食の開発や飛行士からの要望の状況に応じて時々アップデートされる。トルティーヤなどは,最初はボーナス食として,あるクルーが持ち込んだところ,食べかすが出ず片手で持って食べることができるなどの利便性があり,他のクルーにも人気が出て一般メニューに入った。このように,飛行士からのフィードバックも重要な情報になる。
 宇宙食の課題の一つは,“飽きること” であるが,NASA飛行士から一般には温度安定化食品の方が飽きにくいとの意見がある。Fuel cellにより水が供給できるSpace Shuttleと違い,特にISSでは,加水食品よりも温度安定化食品(レトルト食品)の方が都合がいいようである。
 又,NASAではパッケージに関しても,いろいろなタイプを開発してきたが,パウチ状のパッケージが多い。これはパウチ状の方が搭載時容積が小さく,従ってより多くの食品を運ぶことができ,食事準備の際も加温に時間がかからず,さらに,食べた後も平たくつぶせてかさばらないからである。

 
Fig. 1. Examples of NASA Space Foods



 2. FSAの宇宙食
ロシアは米国と並ぶ宇宙開発の長い歴史と豊富な経験を有するが,宇宙食も含め,特に長期滞在に関してはより豊富な経験と独自のシステムを誇っている。筆者は以前,FSA宇宙食について調査するためロシアを訪問したが,宇宙食製造には4つの政府系機関や研究所等が関与しており,新規宇宙食の開発にも熱心に取り組んでいた。NASA宇宙食とFSA宇宙食の大きな違いの一つは,NASAでは一般市場に存在する食品を特殊包装等で一部改変して宇宙食として利用するのに対し,ロシアでは市場製品は使用せず,最初から政府系機関で宇宙食として製造していることである。現在のFSA宇宙食(Fig. 2に例を示す)のメニューには115種類あり,ボルシチなどのロシア名物料理もメニューに含まれており,動物性蛋白質源としてNASAより魚を多く使っている。又,パッケージに関しては,NASA宇宙食と比し缶詰食品が多く,チューブに入った宇宙食(ソース類等)もまだ存在する。これら缶詰等の食後の容器はかさばってごみ問題になりうるが,FSAではProgressで “ごみを出し” 大気圏で焼却するため,NASAほど使用後容器の問題は生じていない。又,かつてロシア単独の宇宙ステーションMIR(1986-2001)において,ロシア人飛行士が宇宙食のみの摂取と運動継続により1年以上滞在し,人間が宇宙での微小重力空間に長期間生活することが可能であることを実証したことは,医学的にも非常に大きな意味をもつ。

 
Fig. 2. Examples of FSA Space Foods



 3. ESAの宇宙食
ESAは以前からESA飛行士をロシアの宇宙ステーションMIRに送った関係で,これまでにもロシアを通して宇宙食を供給したことがある。従って,ESAの宇宙食も缶詰食品が多いが,近年,フランス料理の有名シェフ,アラン・デュカス氏のプロデュースにより本格的フランス料理の宇宙食をISSに供給した。Table 2に最近のESAメニュー5) を示すが,高い食文化を誇るフランス料理だけあって,チキンやカジキマグロ等のメインディッシュ,地中海トマトとオリーブ等のサイドディッシュの他に,チョコレートケーキ等のデザート類にもこだわりをみせている。

Table 2. ESA Space Food Menu
Category
Food Item
Main dishes Shredded chicken Parmentier
Riviera style swordfish
Spicy chicken with stir-fried Thäi vegetables
Quails roasted in Madrian wine
Duck breast ‘confit', with capers
Omelette
Side dishes Sand carrots with a hint of orange and coriander
A light puree of celery with a hint of nutmeg
Tomato, aubergine and olive dip
French toast
Muesli
Desserts Semolina cake with dried apricots
Apple fondant pieces
Space ‘far' (a Brittany tart)
Rice pudding with candied fruit
Chocolate cake
Cheese cake



 4. CSAの宇宙食
CSA4) は2007年,カナダ人飛行士の搭乗にあわせ,カナダ製宇宙食としてオートミールビスケット(“CANASNACK”)とビーフならぬカリブージャーキーを供給した。CANASNACKは一口サイズで,カナダ特産品であるメープルシロップやブルーベリー又はクランベリークリームが中に入ったクッキーである。いずれもカナダ特産であると同時に栄養学的に好ましい原材料を使用し,健康的な宇宙食であるとアピールしている。また,今後は,カナダ産のスモークサーモン等もメニューに入れたいとのことである。
 5. その他の国
独自の宇宙計画を進めている中国や,ISSの参加国ではないが,ロシアのソユーズにより自国の飛行士の短期宇宙飛行を実現,計画している国もあり,それぞれの国の宇宙食も開発されている。
 中国は,2003年11月神舟5号によって初の有人宇宙飛行に成功し,2005年10月には神舟6号を打ち上げた。宇宙食としては,八宝飯(中にあんが入ったもち米のデザート),魚香肉絲(豚肉の辛味炒め),宮保鶏丁(鶏肉とナッツの唐辛子炒め),牛肉団子,あわびや車えびなどの中華料理と,漢方薬と栄養剤を配合した飲料等が開発されたと報道された。
 2007年10月,マレーシア人初の宇宙飛行士はソユーズに搭乗しISSに滞在した。イスラム教徒として宇宙での礼拝方法が話題になったが,断食後は,マレーシアが開発した宇宙食(レンダン・ダギン(牛肉の煮込み),チキン・サテ,ナシ・ビリヤニ(インド風ピラフ),揚げテンペ(発酵豆),バナナようかん,干しマンゴ,イモ粉のクッキー,シリアル・バー,ショウガ風味ゼリー)を食べたと報道された。
 さらに,韓国も,2008年4月に韓国人初の宇宙飛行士をソユーズに搭乗させた。キムチ,ラーメン,コチュジャン,スジョンガなどが宇宙食として開発されたと報道されている。
 このように,多くの国が宇宙飛行を行うようになり,宇宙食も国際色豊かになってきている。

III. 宇宙日本食の開発
以上,宇宙食の概要について述べてきたが,JAXAでは,日本人飛行士のISS長期滞在をふまえ,日本製宇宙食(“宇宙日本食”)の開発に向けての調査・検討を平成13年度より開始した。(社) 日本食品科学工学会の協力のもと,NASAやFSAの宇宙食や製造機関,衛生基準や栄養基準を調査した。その内容を参考に国内の食品製造企業が提案,作成した宇宙日本食サンプルにつき,本格的開発に向けての妥当性評価(味覚評価,保存試験など)を実施した。その結果及び今後の宇宙食供給についてのMMOP-NWG合意文書(ISS FOOD PLAN)が制定されたことより,JAXAでは本格的に宇宙日本食の開発に着手した。
 Space Shuttle等におけるボーナス食では,日本から持ち込んだ食品につき,打ち上げ機関の基準によって検査し,合格した食品をNASAパッケージで再包装し搭載していた。しかし,宇宙日本食として,多くの食品をISSに供給するためには,毎回食品ごとに他国で検査を受けるのでなく,日本国内で検査し,認証するシステムを整える必要性が生じた。
 日本国内で製造された食品をISSの宇宙食にするには,MMOP-NWGによる国際基準及び食品製造に関する国内法令などを遵守することが必要であり,それらをまとめて宇宙日本食認証基準を制定した。上記で述べたように,宇宙食としての諸条件を満たすために,栄養性,衛生性,品質性(水分活性,粘度,官能検査等)の検査,保存試験の実施及び前後の各種検査が必要である。認証基準の詳細に関しては,JAXA文書3) を参考にされたい。又,大日本印刷 (株) の協力で,前述した条件を満たすようJAXA宇宙食用パッケージも数種開発した。
 このようにして,1年間の食品保存試験を実施し,必要な検査に合格したものが,2007年,最初の宇宙日本食として認証された28品であり,Table 3にリスト一覧を,Fig. 3a-3iにサンプル例を示す。原則的には,食品企業が一般に市販している製品を若干改変したものが中心となっているが,以下に簡単に紹介したい。
 まず,日本人の主食は米である。欧米の食事では米料理は付け合わせ程度の存在でしかなく,NASAのメニューでも同様で,食文化上の根本的な違いがある。今回,主食として,白飯,赤飯,おこわ,おにぎり,お粥の各種ごはん類が認証された。アルファ化米の技術により,我々の主食であるお米を宇宙食にできたことは日本人にとっては意義深い。こしひかりと富士山水を原料にした “日本的” なお粥もあり,体調を崩し食欲があまりない時にも利用できるかもしれない。さらに,地上のインスタントラーメンでもおなじみのラーメン3種が認証された。宇宙ラーメンは2005年STS-114でのボーナス食としてすでに宇宙飛行経験をもつ。おかずは今のところ魚料理3種(さば,いわし,さんま)とカレー3種(鳥,豚,牛肉)である。青魚のおかずは,良質の蛋白質源として,又,心血管系疾患予防やその他の健康上メリットが認められているω-3不飽和脂肪酸源として期待できる。又,日本のレトルトカレーは以前からボーナス食として宇宙でも人気があったが,今回認証されたカレーは,宇宙での骨量減少や宇宙放射線による細胞障害等を意識して,カルシウム,ビタミンD,イソフラボン,ウコンなどが強化されている。汁物には,お吸い物,わかめやたまごなど和風のスープ3種が認証された。JAXA独自のパッケージは広い吸い口であり,わかめ等の具もストローに詰まることなく楽しめる。お菓子は宇宙食には欠かせないカテゴリーであるが,飴と羊羹が認証された。飴は和風の黒飴と,宇宙での体液シフトによる頭重感等に効果が期待されるミント系がある。飲料では,緑茶,ウーロン茶,野菜ゼリー2種が認証された。カテキンなどポリフェノールの栄養学的特性により,欧米でも緑茶は人気があり,宇宙でもその効果が期待される。野菜ゼリーは抗酸化作用を有するカロチノイドを含む。調味料としては,日本でおなじみのマヨネーズ,ケチャップ,ソースが認証された。
 このように,日本食メニューとしてはまだまだ不足ではあるが,ISS宇宙食としてスタートラインに立てたことは意義深く,これら第一弾の宇宙日本食が近く宇宙デビューすることが期待される。又,宇宙で実際に食べた時の状況などは,今後の宇宙食開発にとっても貴重な情報を与えてくれるであろう。
 筆者は,かつて旧宇宙開発事業団(NASDA)及び旧航空宇宙技術研究所(NAL)の高速飛行実証(HOPE-X)の飛行実験隊員となった関係で,太平洋上赤道直下に浮かぶキリバス共和国クリスマス島で行われた実証試験のため現地に赴き,同島に長期滞在する隊員の医学管理を担当した。その経験から,過酷な環境での長期滞在では,通常の生活以上に,隊員の身体的精神的健康状態の維持に食事が重要な意義をもつことを実感した。自分の家や家族から離れて過酷な環境に長期隔離されている,隊員同士は仲間であっても仕事日も休日も一緒に過ごしプライバシーがほとんどない,仕事について成果をあげなくてはいけないというプレッシャーがかかる等,これらの隊員のおかれた状況はISS長期滞在の状況に非常に似た点があった。クリスマス島は美しい海に囲まれているが,我々の体が慣れていない熱帯気候で,隊員には様々なストレスがかかっており,そういった状況の中で体調を崩した隊員もいたが,彼らを喜ばせたのは,時に日本から仕送りされた食べ物であった。滞在が長期になってくると,食事だけが楽しみ,という隊員もいて,栄養学的にすぐれ,おいしい食べ物をとることが,隊員のモチベーションや心身の健康維持に貢献できる可能性は計り知れない。
 さらに,ISSのJEMに携わる地上運用要員は,年齢層や職業上の専門分野等の背景,交代勤務による日内リズム障害,業務上のプレッシャーなど,宇宙飛行士がおかれた環境を共有する点も多くある。そこで,筆者らは,JEM運用のシミュレーション試験が行われた機会を利用して,彼ら地上要員を対象に,宇宙日本食サンプルを用い,ストレスがかかる試験時と通常業務時の味覚変化について検討した。その結果,必ずしも宇宙空間に特有な微小重力環境下でなくても,ストレスのかかる業務をこなすと味覚が変化することが示された7−8)
 宇宙日本食の研究開発において,こうした各種情報,妥当性評価,研究結果及び宇宙飛行士による試食会でのコメントは,当時の宇宙日本食サンプル製造企業にフィードバックされ,内容の一部改変等が行われた。最終的には,各企業担当者達の努力によって宇宙日本食が完成したことを付記しておきたい。

Table 3. JAXA Space Food Menu
Category
Food Item
Type*
Manufacturer
Main dishes Ramen noodles, soy sauce flavor
Ramen noodles, seafood flavor
Ramen noodles, curry flavor
Rice porridge, plain
Cooked rice, plain
Cooked rice with Japanese red beans
Cooked rice with vegetables
Rice ball with salmon
R
R
R
T
R
R
R
R
Nissin Food Products Co., Ltd.
Nissin Food Products Co., Ltd.
Nissin Food Products Co., Ltd.
Q. P. Corporation
Onishi Foods
Onishi Foods
Onishi Foods
Onishi Foods
Side dishes Mackerel with miso sauce
Sardine with tomato sauce
Mackerel with teriyaki sauce
Beef curry
Pork curry
Chicken curry
T
T
T
T
T
T
Maruha Nichiro Holdings, Inc.
Maruha Nichiro Holdings, Inc.
Maruha Nichiro Holdings, Inc.
House Foods Corporation
House Foods Corporation
House Foods Corporation
Soups Soup with wakame seaweed
Japanese clear soup
Egg drop soup
R
R
R
Riken Vitamin Co., Ltd.
Riken Vitamin Co., Ltd.
AJINOMOTO Co., Inc.
Desserts/Sweets Black sugar candy
Peppermint candy
Sweet red bean paste
Sweet red bean paste with chestnut
NF
NF
NF
NF
Yamazaki-Nabisco Co., Ltd.
Yamazaki-Nabisco Co., Ltd.
Yamazaki Baking Co., Ltd.
Yamazaki Baking Co., Ltd.
Beverages Green tea
Oolong tea
Tomato drink, jelly type
Carrot drink, jelly type
R
R
NF
NF
Mitsui Norin Co., Ltd.
Mitsui Norin Co., Ltd.
Kagome Co., Ltd.
Kagome Co., Ltd.
Condiments Tomato ketchup
Japanese worcester sauce
Mayonnaise
C
C
C

Kagome Co., Ltd.
Kagome Co., Ltd.
Q. P. Corporation
  *R: Rehydratable, T: Thermostabilized, NF: Natural Form, C: Condiments


a b
c d
e f g
h i  
Fig. 3. Examples of JAXA Space Foods
a: Rice porridge, plain
b: Cooked rice with Japanese red beans, Cooked rice with vegetables, Rice ball with salmon
c: Mackerel with miso sauce
d: Beef curry
e: Soup with wakame seaweed
f: Sweet red bean paste
g: Black sugar candy
h: Green tea
i: Mayonnaise



IV. 今後の宇宙日本食研究開発と将来の宇宙食
“宇宙日本食” とは,必ずしも寿司や天ぷらなどの典型的和食にこだわっているわけではない。我々が日本で普段食べている慣れ親しんだメニューを宇宙でも食べることができれば,日本人飛行士にとっては,心理的側面から好ましい影響を及ぼすであろう。
 今回の宇宙日本食は,とりあえず,国内大手食品製造企業が市販している製品を宇宙食用に若干アレンジしたものがほとんどである。全国の中小企業が製造した食品も認証基準を満たせば,もちろん宇宙日本食として認証されうる。しかしながら,今後は,バラエティを増やすだけでなく,特に宇宙での長期滞在を念頭に栄養学的特質など内容の充実もはかっていきたいと考えている。
 NASAでも FSAでも新規開発品が時々リストに載ってくるが,人気のない宇宙食はリストから消えていく。宇宙日本食も同様で,JAXA認証はされてもISS宇宙食として生き残れるかが今後の課題になる。日本人飛行士の搭乗機会はまだ少なく,嗜好性だけでは個人差が大きいためボーナス食と変わらず,ISS宇宙食としての生き残りは困難で,何がポイントになるかを考えていく必要があろう。
 興味深いことに,上述したNASA及びFSAの宇宙食メニューリストに,近年green teaが載った。緑茶のもつ栄養面での利点が国際的に知られてきた影響だと思われるが,NASAのgreen teaには砂糖入りと砂糖なしが存在する。米国の街角のカフェでgreen tea云々と謳った飲み物が,実際にはわずかな抹茶味とほとんどメロン風味シロップのような味がすることを考えると,今回,日本から本場の緑茶を供給できるようになってよかったと個人的には思っている。同様にTOFUも健康的な植物性タンパク源として米国では市販されているが,NASAのメニューにも登場した。しかし,日本人としては,やはり日本から豆腐料理,味噌汁を宇宙食として供給できないかと期待している。このように,他国の宇宙食メニューに和食素材が登場してくるようになっており,我々こそが,ぜひ本場のものを供給すべきと考えているが,なぜ和食素材が求められているかというと,それは,栄養性である。
 他稿2) に詳しく述べたが,宇宙での医学生理学的問題に対し,食事による介入も重要である。日本国内でも最近は特定保健用食品が数多く見かけるようになったが,今後は機能性を重視した宇宙食の開発も検討している。宇宙医学的観点から,長期宇宙滞在に必要な栄養素を強化したり,栄養学的に好ましい和食素材を使った宇宙食を開発することで,国際的にアピールできるであろう。上記に挙げた緑茶や豆腐以外にも,例えば,枝豆や椎茸も健康的な食材EDAMAME,SHIITAKE mushroomとして米国では食品スーパーなどで見かけるようになった。海外の日本食レストランではMISO soup は日本人以外にもよく飲まれている。このように,すでに欧米の一般市場にも登場しているものは,日本人以外の飛行士にも受け入れられやすいであろう。その他,海藻類やきのこ類などの食材もミネラル,食物繊維源として望ましい。納豆は糸やにおいなどの問題でそのままでは宇宙食としては不適であるが,宇宙での骨量減少に対し,ビタミンKを含有する大豆製品として期待される素材である。又,筆者は,MMOP-NWGにおいて,ロシアの専門家とディスカッションした際,日本からの魚料理を期待している,と言われたことがある。欧米ではサプリメントしてfish oil を摂取するくらいであるから,ω-3脂肪酸含有量の多い魚メニューを充実したい。逆に,米国ではtrans fatによる医学的問題から,近年,食品中の含有量表示が義務づけられたが,今後の方向としては,trans fatを含有しない宇宙食が望まれる。実際,最近のCSA宇宙食は,“trans fat-free” 材料を使用,とアピールしている。
 過去においては,有人宇宙開発に長い歴史と経験を持つ米国とロシアが中心となって宇宙食が開発されてきたが,いずれの国の飛行士も白人を主とした集団であった。ESAやCSAは宇宙機関は異なるが,人種としては,米ロと同じ欧米人グループとして考えることができ,体質的な意味での人種差や食文化は,我々ほど大きな違いはない。日本は世界一の長寿国であるが,日本人の健康の秘訣は伝統的な日本食にあるとも言われている。そういった意味で,欧米とは異なる食文化を紹介していくのも,我々の大きな役目であろう。又,欧米人の栄養所要量をそのまま日本人にあてはめることはできず,栄養や代謝に関する人種差なども考慮し,宇宙日本食を開発する必要があると考える。
 さらに,日本の高い食品加工技術も我々には有利である。NASAではレトルト食品メニューが多いが,これらは当初は軍関係機関の特注品で,現在でも一般の食品スーパーではレトルト食品はあまり見当たらず,ツナやサーモンが小さめのレトルトパウチに入ったものが存在する程度である。フリーズドライやレトルト食品という言葉自体,日本に比して米国内では一般にはあまり知られていない。一方,日本の市場には,フリーズドライやレトルト食品があふれており,しかもおいしくできている。このように,日本の食品加工技術は非常に高く,これを宇宙食に生かせばいいのである。NASA飛行士から一般には温度安定化食品の方が飽きにくいとの意見があると述べたが,日本のハイレベルな凍結乾燥技術をもってすれば,フリーズドライ食品もおいしく食べられるであろう。
 又,今後は,食品の長期保存の技術や軽量化,食後のゴミを少なくする容器の開発なども必要となる。先に述べたHACCPと同様,宇宙食開発の過程で生み出された新技術の日常生活へのスピンオフが更に生まれることが期待される。
 一方,JAXAでは宇宙輸送手段として純国産H-IIAロケットを開発し,2001年8月の1号機からロケット打ち上げ及び衛星の目的軌道投入を実施しており,現在では,より打ち上げ能力の高いH-IIBロケットを開発中である。今後,ISSが完成し運用が本格的に開始される時期に向けて,ISSへ物資を運搬する宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle: HTV)も開発中であり,H-IIBロケットで打ち上げられる予定である。これを利用すれば日本は食事に関してさらに大きな貢献ができることになる。
 NASAをはじめ各宇宙機関では,ポストISSとして,月や火星などの惑星探査飛行を計画している。現在のISS栄養摂取基準は1年までのミッションを想定したものである。しかし,惑星探査飛行では,数年の単位がかかることを考えれば,栄養摂取基準について改めて考え直す必要が生じ,また宇宙食についても全く新しいフェーズで開発することになる。水をリサイクルするシステムを整備することになり,フリーズドライ食品が多用されることになるであろうが,日本はこの技術に強いので期待できる。また,惑星探査飛行では,全て地球から食料を持っていくのでなく,植物類は月などの途中基地あるいは宇宙船内で栽培する必要も生じると予想される。従って,実際に火星ミッションを考える際には,宇宙での ‘農業’ 技術開発も今後の課題であろう。米国では,アリゾナ州に建設されたBiosphere 2(閉鎖空間の人工生態系施設)で実験が行われたことがあるが,やはり食生活に関して困難を極めた。将来の有人宇宙活動にとって,安全な食糧の確保は最優先事項として研究開発が必須となるであろう。
 
VI. おわりに
人類初の宇宙飛行士Gagarinは,かつて,孤独ながらも決死の覚悟で勇敢に宇宙へ飛び出していった。その時の彼には,50年も経たないうちに自分の後輩たちが宇宙で緑茶を飲みながら談笑し,他国の飛行士と生活する姿を想像できただろうか?
 Gagarinにはじまって,これまでに何百人もの飛行士が宇宙飛行を経験している。将来的には,宇宙飛行士だけでなく民間人が宇宙観光旅行をすることが計画されているし,人類が宇宙で生活する時代が到来するかもしれない。しかし,いかなる時代,いかなる場所においても,食事は人間が生きていく上で非常に重要かつ不可欠な要素である。
 今後は,栄養学的に優れた日本食の特色を生かした宇宙日本食を開発し,日本人のみならず世界各国の宇宙飛行士に食べてもらい,宇宙での健康を維持してもらいたいと思う。それによって,我々のISS計画への貢献が少しでも実現できれば幸いである。
 
謝辞
 宇宙日本食研究開発に際し,協力支援を得た各企業,(社)日本食品科学工学会,国際宇宙機関の関係各位に感謝する。
 
文献

1) 松本暁子: 宇宙食の現状と “宇宙日本食” 開発の展望,日本栄養・食糧学会誌,57, 99-104, 2004.
2) 松本暁子: 宇宙での栄養,宇宙航空環境医学(印刷中)
3) http://iss.jaxa.jp/spacefood/document.pdf
4) http://www.space.gc.ca/asc/eng/default.asp
5) http://www.esa.int/esaCP/index.html
6) http://www.nasa.gov/missionpages/station/main/index.html
7) Matsumoto, A. and Watanabe, Y.: Taste changes under stressful conditions simulating life on ISS. Aviat. Space Environ. Med., 75, B42, 2004.
8) Matsumoto, A. and Watanabe, Y.: Taste changes under stressful conditions simulating life on ISS: Vol. 2. Aviat. Space Environ. Med., 76, 222, 2005.
9) Matsumoto, A., Storch, K.J., Stolfi, A., Mohler, S.R., Frey, M.A. and Stein, T.P.: Body weight loss in humans in space. (in submision)
10) Smith, S.M., Zwart, S.R., Block, G., Rice, B.L. and Davis-Street, J.E.: The nutritional status of astronauts is altered after long-term space flight aboard the International Space Station. J. Nutr., 135, 437-443, 2005.

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