宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 148, 2007

植え込み型の医療器具(ペースメーカー)を装着している方のために

宮 秀和

埼玉県立循環器・呼吸器病センター 循環器科

Advice for Patients with Implantable Device (e.g. Pacemaker)

Hidekazu Miyazaki‚ MD

Department of Cardiology‚ Saitama Cardiovascular and Respiratory Center

 経静脈リードを用いた恒久的ペースメーカー(PM)が徐脈性不整脈に対するペーシング治療に臨床応用されてから凡そ半世紀が経過する。今日では小型で非常に高性能のPMが臨床現場で使用されている。一方,1990年代末には致死性不整脈を検知し自動的に治療を行う植え込み型除細動器(ICD)の臨床応用が始まり,重症心疾患患者の突然死の予防に大いに貢献している。今日のICDでは心室細動に対する除細動のみならず,心室頻拍に対する抗頻拍ペーシングも設定可能である。また,重症心不全患者の治療用として両室ペーシング機能付きPM(CRT-P)が数年前から日本でも植え込み可能となった。CRT-P治療により治療抵抗性の重症心不全患者の生活の質(QOL)が飛躍的に改善するようになった。さらに両室ペーシング機能付きICD(CRT-D)が2007年7月より日本でも使用可能となった。重症不整脈を合併する重症心不全例に対してCRT-D植え込みが積極的に行われており,両室ペーシングによるQOLの改善および突然死予防による生命予後の改善が期待されている。
 植え込み型医療器具を使用している者の数は増加の一途を辿っており,このような者が渡航する機会は今後,より一層増加すると考えられる。植え込み型医療器具はその性質上,磁場および電磁波の干渉を受けやすい。干渉を受けるとペーシング機能が抑制されたり,ICDやCRT-Dでは心室性頻拍性不整脈と誤認識して不適切作動を生じる可能性がある。金属探知機,盗難防止装置などは注意が必要である。すぐに通過する場合はまず問題ないが,近くに立ち止まると電磁波の干渉を受け,作動不良を生じる可能性がある。携帯電話の使用や携帯は概ね問題ないが,使用方法を誤ると有害事象を生じる可能性があり,やはり注意が必要である。植え込み型医療器具の使用者が渡航する際は,有害事象を避けるために注意事項を事前に良く把握しておく必要がある。