宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 147, 2007

旅行前のチェックポイントと旅行中の注意

桝田 出

医療法人財団康生会 東山武田病院 内科

Pre-travel Checkpoints and In-flight Precautions for Patients with Cardiovascular Disease

Izuru Masuda‚ MD

Higahsiyama Takeda Hospital

 心疾患患者が航空機を利用して旅行する機会が増加している。そのため,搭乗前のストレス,航空機内での環境の変化(気圧や酸素分圧の低下,アルコールの過剰摂取,脱水など),旅行中の無理な日程などによって,心筋梗塞症や突然死を発症することも少なくない。その特徴は,中年男性,心血管系疾患の既往歴を有する,薬を機内に持参しない例に多く,また国内線より国際線で3倍発症率が高く,離陸前〜離陸後3時間以内に発症ピークが認められることなどである。
 一般に心疾患患者が航空機に搭乗する際の医学的評価や準備は下記のような点が挙げられる。1. 旅行の可否を診断する。2. 心電図,レントゲン撮影,血液検査などメディカルチェックを行う。3. 最近の心電図,病歴,診断名,薬の種類や量などを記載した英文の手紙を持参させる。4. 発作が起きたときの対処の仕方を教示し,ニトログリセリンの舌下錠,抗不整脈薬,降圧薬などを処方する。2004年Annals of internal medicineの総説によれば,心疾患患者で搭乗が不可になる病態は,発症後2週間以内の心筋梗塞,2週間以内の経皮的冠動脈インターベンション,不安定狭心症,3週間以内の心臓バイパス術後,重症のうっ血性心不全,コントロールされていない心室性や上室性不整脈であり,重症の心臓弁膜症や心筋症,アイゼンメンジャー症候群,発症後2週間以内の脳卒中なども不可となる。
 わが国の疾病構造は,生活環境の急激な変化によって大きく変貌し,動脈硬化性疾患による死亡率は米国と同等レベルまで上昇してきている。この原因は,生活習慣病を代表する高血圧症,2型糖尿病,脂質異常症,そして基盤となる肥満・メタボリックシンドロームの増加である。従って,これらの疾患を有する患者に対して,旅行前だけではなく日頃から心血管系疾患の発症予防や早期発見に心がけることが,安全な空の旅を行う第1歩となろう。