宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 141, 2007

宇宙基地医学研究会

MERSS-5. 閉鎖型生態系実験施設(CEEF)における居住実験とストレス

相部 洋一

財団法人 環境科学技術研究所

Stress of the closed habitation experiment using Closed Ecology Experiment Facilities (CEEF)

Yoichi Aibe

Institute for Environmental Sciences

 財)環境科学技術研究所では,青森県の委託事業として,核燃料再処理施設から大気中に放出された放射性炭素14Cの生態系での移行予測を行うため,閉鎖型生態系実験施設(Closed Ecology Experiment Facilities,以下CEEF)を用いた実験を行っている。CEEFでは,水稲やダイズを始めとする23種類の植物が育てられ,ヒト2名が長期の居住実験を実施できる。いわばCEEFは,エネルギー以外の全てを施設内で循環,再利用する,自給自足型の先端生命維持装置(Advanced Life Support System: ALSS)といえる。CEEFでは,2005年に初めて閉鎖居住実験が開始され,2006年までに滞在期間を1週間とした閉鎖居住実験が延べ9回実施された。本施設で閉鎖居住実験を行う居住者は,エコノート(Econaut)と呼ばれ,日本の宇宙飛行士選抜方法に準じた心理試験や医学検査等により,成人男子4名が選抜された。これまでの9回の実験を通して多くの心理的・生理的データが取得されている。実験前後および終了後2ヶ月後の健康診断の結果では,居住実験における完全菜食の影響と考えられる血中脂質成分の変化が認められたが,健康状態の悪化は認められず,居住期間中の血圧や体温も,特に傾向は認められなかった。ストレスに関連が深い生理的指標として唾液中のコルチゾールと尿中アドレナリンが測定されたが,閉鎖居住実験開始中は低値を示し,開始前と終了後は高値を示す傾向がみられた。また,10項目の質問からなるVisual Analogue Scale(VAS)により,実験中はその前後と比較して,リラックスしている傾向が見られた。これらの結果から,1週間の短期閉鎖居住実験においては,エコノートへの生理的・心理的なストレスは少なく,その開始前(準備期間)および終了後の多忙な状況がストレスとして現れている可能性が考えられた。2007年度は最長4週間の居住実験を実施し,より詳細な検討を行う予定であり,得られるデータは,自立型の先端生命維持装置で生活するヒトの生理心理的な基礎資料になりうると考えられる。