宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 136, 2007

ワークショップ

4. 短期間の宇宙飛行が骨量や体重などに及ぼす影響

大島 博1,向井 千秋1,立花 正一1,関口 千春1‚2,宮本 晃1‚3,重松 隆1‚4,水野 康1‚5

1宇宙航空研究開発機構
2慈恵医科大学
3日本大学
4和歌山県立医大
5東北福祉大学

Effect of short duration space flight on bone mineral density and body weight

Hiroshi Ohshima1‚ Chiaki Mukai1‚ Shoichi Tachibana1‚ Chiharu Sekiguchi1‚2‚ Akira Miyamoto1‚3
Takashi Shigematsu1‚4‚ Koh Mizuno1‚5

1Japan Aerospace Exploration Agency
2Jekei University
3Nihon University
4Wakayama Medical University
5Tohoku Fukushi University

 長期宇宙滞在の身体への影響として,骨量減少や尿路結石の問題がある。長期宇宙飛行では,腰椎や大腿骨の骨量は1か月あたり,1.0〜1.5%(最大2.5%)減少するとされているが,1-2週間の短期宇宙飛行での検討は少ない。そこで,日本人宇宙飛行士のスペースシャトルによる宇宙飛行前後に,骨量,骨代謝マーカー,および体組成(体重・徐脂肪体重・脂肪)を測定し,1-2週間の宇宙飛行による影響の実態を明らかにすることが本研究目的である。
 対象は,7回のスペースシャトルで飛行した日本人宇宙飛行士(搭乗時平均年齢41.7歳,フライト期間9〜16日間)で,DXA を用いて,骨量(前腕骨・腰椎・大腿骨の骨密度,および全身骨塩量),および体組成(体重,除脂肪体重,脂肪)を計測した。飛行前の測定は,打ち上げ予定日の90日前と30日前の2回行い,それらの平均値を飛行前値とした。飛行後の測定は,帰還後3日目,7日後,30日 後,90日後に測定した。骨吸収マーカー(骨型アルカリフォスファターゼなど)と骨形成マーカー(尿中ピリジノリンなど)の医学データ取得は,帰還日にも実施した。
 全身の骨塩量と非荷重骨である前腕骨の骨密度は,飛行後ほとんど変動しなかった。荷重骨である腰椎と大腿骨頚部の骨密度は,帰還直後はほとんど変動しないが,帰還3月後には腰椎と大腿骨の骨密度は,それぞれ−0.6%,−1.4% とわずかに減少する傾向があった。骨吸収マーカーは帰還後数週間亢進し,骨形成マーカーは帰還直後から数週間低下していた。スペースシャトルによる短期宇宙飛行では,1-2週間の宇宙飛行であっても,帰還後も骨形成低下と骨吸収亢進は数週間持続するので,宇宙飛行後の骨量減少リスクは全くないとはいえない。微小重力での骨量減少には個人差も著しいので,ISSの長期宇宙滞在では,飛行前の骨量評価と短期宇宙飛行の結果をもとに,テーラーメイドな予防対策が重要であると考える。
 スペースシャトルでの短期宇宙飛行後には飛行前と比べて,体重は約1.7 Kg(2.7%),体脂肪は2.9%,除脂肪体重(筋肉量)は3.0% それぞれ減少した。地球に帰還した後,体重と体脂肪は約1週間で飛行前値まで回復したが,筋肉量を反映する除脂肪体重の回復には数週間を要した。さらに,帰還3か月後には,体重は1.7 Kg,体脂肪は12.3% 増加していた。飛行前・中に加えて,帰還後の健康管理としての栄養と運動指導が重要であると考えられた。