宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 133, 2007

ワークショップ

1. スペースシャトル飛行前後の医学データ取得の概要

大島 博1,関口 千春1‚2,宮本 晃1‚3,重松 隆1‚4,水野 康1‚5,秋間 広1‚6,福永 哲夫1‚7,川島 紫乃1
松本 暁子1,向井 千秋1,立花 正一1

1宇宙航空研究開発機構
2慈恵医科大学
3日本大学
4和歌山県立医大
5東北福祉大学
6名古屋大学
7早稲田大学

Baseline data collection of Japanese astronauts before and after space shuttle flight

Hiroshi Ohshima1‚ Chiharu Sekiguchi1‚2‚ Akira Miyamoto1‚3‚ Takashi Shigematsu1‚4‚ Koh Mizuno1‚5‚ Hiroshi
Akima1‚6‚ Tetsuo Fukunaga1‚7‚ Shino kawashima1‚ Akiko Matsumoto1‚ Chiaki Muaki1‚ Shoichi Tachibana1

1Japan Aerospace Exploration Agency
2Jekei University
3Nihon University
4Wakayama Medical University
5Tohoku Fukushi University
6Nagoya University
7Waseda University

 宇宙航空研究開発機構は,宇宙飛行に伴う人体への影響を把握し,帰還後の健康管理に役立てることを目的として,スペースシャトルに搭乗する日本人宇宙飛行士の筋骨格系の医学データを測定してきた。個々の研究成果発表に先立ち,共通の実験デザイン等の研究概要を紹介する。
 7回のスペースシャトルで飛行する5名(男・女各1名は2回搭乗)の日本人宇宙飛行士を対象とした。搭乗時年齢は32〜52歳(平均41.7歳),フライト期間は8〜16日間(平均12日7時間53分間)であった。スペースシャトルで飛行する日本人宇宙飛行士の,飛行前(打ち上げ90日前,30日前)および飛行後(帰還3日後,7日後,30日後,90日後)に,骨量・体組成(DXA),骨代謝マーカー(血液・尿),筋横断面績測定(MRI),筋力(Cybex)等の医学データを取得した。骨代謝マーカーは帰還日もデータを取得した。
 研究計画は,あらかじめ有人サポート委員会医学心理学分科会(現,健康管理分科会)で科学評価を,JAXAおよびJSCの有人研究倫理委員会で倫理面の事前評価を受けた。NASA関係者(JSCおよびKSC内の病院およびNASAに提携する病院のスタッフ)が医療機器の保守点検した後に,医学データ取得を行った。被験者の健康状態の把握はNASAとJAXAのFS(Flight Surgeon)が行った。被験者には,あらかじめ有人研究説明書に基づき書面を用いて説明を行い,参加同意の署名を得て実施した。データは宇宙航空研究開発機構の鍵のかかるロッカー内に保管し,個人が特定される形での公表は行わないことにした。
 日本人宇宙飛行士は,全てミッションスペシャリストか,ペイロードスペシャリストであり,飛行中の運動回数は2〜3回で,自転車エルゴメーターを用いた有酸素運動などが行われた。飛行中の食事は,体重,年齢,性別,および活動量をもとに宇宙食(例えば35歳で70 Kgの男性では,2‚875キロカロリー/日,水分2‚000 ml/日,カルシウム1‚000/日,ビタミンDは10 μg/日)が準備されたが,数名の飛行士から「約7割程度食べた」とのコメントを得ている。
 宇宙飛行士の飛行前後の医学データ取得の特徴として,宇宙飛行士の協力が得られる研究計画であること,飛行機会が不定期で少ない,スケジュールや帰還地の変更への対処が必要である,飛行期間・飛行中の生活(運動・食事)・飛行前の初期値が一定でない,個人を特定させないために,成果報告には数例のデータを数年間かけて取得する必要があるなどの研究上の制約があげられる。日本人宇宙飛行士の搭乗機会の医学データを蓄積しその成果をまとめることは,わが国の有人宇宙開発の技術蓄積に資するとともに,今後の有人宇宙飛行に対する健康管理計画の作成にも役立てることが期待される。