宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 127, 2007

一般演題

J-1. Unloadingによる筋変性におけるオステオアクチビンの役割

田村 斉子1,不老地 治美1 ,竹島 佳代1,中尾 玲子1,平坂 勝也1,石堂 一己2,東山 繁樹3,岸 恭一4
二川 健1

1徳島大・生体栄養学
2徳島文理大・健康科学研究所
3愛媛大・生化学・分子遺伝学
4名古屋学芸大・管理栄養学部

The roles of osteoactivin in muscle degeneration induced by Unloading-stress

Seiko Tamura1‚ Harumi Furouchi1‚ Kayo Takeshima1‚ Reiko Nakao1‚ Katsuya Hirasaka1‚ Takumi Ishido2
Shigeki Higasiyama3‚ Kyoichi Kishi4‚ Takeshi Nikawa1

1Department of Nutritional Physiology‚ the University of Tokushima Graduate School‚ Tokushima‚ Japan
2The institute for Health Sciences‚ Tokushima Bunri University‚ Tokushima‚ Japan
3Nagoya University of Arts and Sciences‚ Nagoya‚ Japan
4Department of Biochemistry and Molecular Genetics‚ The University of Ehime Graduate School‚ Ehime‚ Japan

 オステオアクチビンは,長期の寝たきりや宇宙フライトなどのUnloadingストレスによって発現が大きく上昇するI型糖タンパク質である。私達は以前,坐骨神経切除によりマウス腓腹筋の筋形質膜状に強発現したオステオアクチビンが,遊走してきた線維芽細胞によるMMP3,MMP9,及びI型コラーゲンの発現を増大させることを示した。今回,オステオアクチビンの線維芽細胞活性化作用のメカニズムについて更に詳細な解析を行った。C2C12筋芽細胞において,約97と116 kDaの分子量で合成されたオステオアクチビンは,メタロプロテアーゼによりShedding(膜上でのたんぱく質分解) をうけることがわかった。培養メディウム中からは,分子量約90と100 kDaの細胞外断片が検出された。興味深いことに,同様のオステオアクチビンのsheddingが坐骨神経切除したマウスでも確認された。そこで,細胞外断片のみのオステオアクチビン-リコンビナントをNIH3T3線維芽細胞に添加したところ,MMP3 mRNA発現が上昇した。また,このMMP3 mRNA発現の上昇はMAPK経路のERK阻害剤により抑制された。これらの結果から,Sheddingをうけて細胞外に放出されたオステオアクチビン細胞外断片はERKを介して線維芽細胞のMMP3発現を誘導することが示唆された。
 さらに,オステオアクチビンの線維芽細胞活性化作用が,坐骨神経切除した骨格筋の再生に与える影響について検討した。オステオアクチビン-トランスジェニックマウスに長期坐骨神経切除を行ったところ,野生型マウスに比べて腓腹筋の組織変性や線維化が有意に抑制されることがわかった。この時,マウス腓腹筋において組織の再生や抗線維化に関連する遺伝子発現の上昇も見られた。以上の所見より,Unloadingストレスにより誘導されたマウス骨格筋のオステオアクチビンの発現上昇は,変性した骨格筋の過度な線維化を抑制し,筋再生を促進するcytoprotectiveな反応であることが示唆された。今後,更なるオステオアクチビンの機能解析を進め,廃用性筋萎縮の予防及び治療法の確立に役立てたいと考えている。