宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 126, 2007

一般演題

I-4. 温熱ストレスによるNF-κBの応答と骨格筋の肥大

大野 善隆1,後藤 勝正1,杉浦 崇夫2,大平 充宣3,吉岡 利忠4

1豊橋創造大・リハビリ
2
山口大・教育
3大阪大・院・医学系
4弘前学院大

Possible role of NF-κB signaling in heat-stress associated muscle hypertrophy in cultured skeletal muscle cells

Ohno‚ Y1‚ Goto‚ K1‚ Sugiura‚ T2‚ Ohira‚ Y3‚ Yoshioka‚ T4

1Laboratory of Physiology‚ Toyohashi SOZO University‚ Toyohashi
2Faculty of Education‚ Yamaguchi University‚ Yamaguchi
3Graduate School of Medicine‚ Osaka University‚ Toyonaka
4Hirosaki Gakuin University‚ Hirosaki

 温熱ストレスの負荷は,骨格筋肥大を引き起こす。これまで,温熱ストレスは機械的ストレスによる筋肥大を促進すること,負荷除去に伴う筋萎縮が軽減すること,廃用性筋萎縮からの回復を促進すること,骨格筋肥大を引き起こすことが明らかになっている。骨格筋の肥大は,タンパク質合成の相対的な促進によって生じるが,温熱ストレスによる筋肥大を引き起こす分子機構は未だ明らかでない。一方,転写因子の1つであるNF-κBの活性化は種々の細胞ストレスによって引き起こされる。NF-κBは細胞質中でIκBと会合し,不活性型として存在しているが,サイトカインなどの刺激によってIκBが解離・分解され,NF-κBの活性が生じ,その後核内に移行し,遺伝子発現を誘導する。こうしたNF-κBの活性化は骨格筋分化を抑制し,骨格筋特異的ユビキチンリガーゼであるMuRF1を活性化することが報告されている。しかしながら,温熱ストレスに対するNF-κBの応答ならびに温熱ストレスによる骨格筋肥大の関連性は明らかでない。そこで本研究では,温熱ストレスによる骨格筋細胞の応答をNF-κBの変動から検討し,温熱ストレスによる骨格筋肥大におけるNF-κBの関与を明らかにすることを目的とした。実験対象には,マウス骨格筋由来筋芽細胞C2C12を用いた。培養開始11日目の筋管細胞に温熱ストレス(41°Cの環境温に60分間の曝露)を負荷した。温熱ストレス負荷後,0および24時間後に細胞を回収した。筋タンパク量ならびにp65?NF-κBおよびリン酸化p65 NF-κBの発現量を測定した。温熱ストレス負荷24時間後,筋タンパク量の有意な増加が認められた(p<0.05)。また,温熱ストレス負荷1時間後,p65?NF-κBおよびリン酸化p65 NF-κBの発現量の有意な低下が認められた(p<0.05)。したがって,温熱ストレスによる筋タンパク量の増加には,NF-κBの発現量および活性の低下が関与しているかもしれない。本研究の一部は,文部省科学研究費(若手B‚19700451;基盤C‚17500444;基盤A‚18200042; 基盤S‚19100009),花王健康科学研究会助成金ならびに(財)日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上公募研究」プロジェクトの一環として実施された。