宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 123, 2007

一般演題

I-1. 骨格筋の活動量変化に対する組織内脂肪の応答

鈴木 美穂1,内藤 美幸1,大野 善隆1,後藤 勝正1,大平 充宣2,吉岡 利忠3

1豊橋創造大・リハビリ
2
大阪大院・医学系
3
弘前学院大

Responses of lipid droplets in skeletal muscle cells to loading

Miho Suzuki1‚ Miyuki Naito1‚ Yoshitaka Ohno1‚ Katsumasa Goto1‚ Yoshinobu Ohira2‚ Toshitada Yoshioka3

1Laboratory of Physiology‚ Toyohashi SOZO University‚Toyohashi
2Graduate School of Medicine‚ Osaka University‚ Toyonaka
3Hirosaki Gakuin University‚ Hirosaki

 運動はエネルギー消費量を高めることから,体脂肪量を減少させるのに有用な方法であることは良く知られている。逆に,筋活動量の減少はエネルギー消費量を低下させ,体脂肪量を増加させる主要な要因と考えられる。さらに,筋活動量の減少は骨格筋に質的かつ機能的な変容をもたらす。そして骨格筋の萎縮は,基礎代謝量の減少や毛細血管床の減少による循環血液量の減少,さらには骨萎縮を招き,生活の質(QOL)を大きく低下させる。その一方で,様々な骨格筋疾患では骨格筋組織内脂肪量の増加や脂肪化などが生じることが報告されている。後者の骨格筋組織の脂肪化は,骨格筋に存在する筋衛星細胞やその他の組織幹細胞が脂肪細胞へと分化した結果であると考えられている。しかし,筋活動量の減少自体が骨格筋組織内の脂肪量にどのような影響を与えるかについては明らかでない。そこで本研究では,筋活動の増加を共同筋腱切除による過負荷モデルにより,筋活動の減少は後肢懸垂による荷重除去モデルを用いて,筋活動量の増加および減少による骨格筋組織内脂肪量の変化について検討した。生後7週齢の雄性マウス(C57BL/6J)を対照(C)群,懸垂(S)群および過負荷(O)群の3群に分類した。S群のマウスは2週間後肢懸垂し,ヒラメ筋に対する荷重を除去することで筋活動を抑制した。O群にマウスにはヒラメ筋の共同筋である腓腹筋および足底筋の腱切除を行い,ヒラメ筋を過剰な負荷がかかる状態を2週間継続させた。懸垂開始ならびに共同筋腱切除2週間後,各群の半数のマウスの両後肢よりヒラメ筋を摘出した。残りのマウスヒラメ筋にcardiotoxin(CTX)を筋注し,筋損傷を起こさせた。CTX筋注後,さらに通常飼育(CX),懸垂(SX)および共同筋腱切除(OX)の状態を2週間継続した後,ヒラメ筋を摘出した。摘出した右後肢のヒラメ筋は即座に液体窒素により急速凍結し,HE染色ならびに脂肪染色を行い,ヒラメ筋組織を病理学的に評価した。左後肢のヒラメ筋は即座に長軸方向に2等分し,中枢端を凍結乾燥して筋水分量を測定に,また末梢端は筋タンパク質含有量の評価にそれぞれ用いた。その結果,筋活動の減少により筋細胞内脂肪量が増加していることが明らかとなった。また,筋活動量の減少は,組織幹細胞の脂肪化ポテンシャルを増加させることが示唆された。一方,過負荷による筋活動量の増加は,筋細胞内脂肪量を減少させることが認められた。以上より,宇宙飛行士はもちろんのこと様々な病態に伴う筋萎縮時には骨格筋内脂肪の増加が生じていると考えられた。尚,本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会による審査後,承認を得て実施された。本研究の一部は,文部省科学研究費(C‚17500444; A‚18200042; S‚19100009),花王健康科学研究会助成金ならびに(財)日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上公募研究」プロジェクトの一環として実施された。