宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 121, 2007

一般演題

H-3. 航空搬送の事故例について その2

吉田 泰行

千葉徳洲会病院 耳鼻咽喉科・健康管理課

On the accident cases of emergency aeromedical service‚ Part 2

Yasuyuki Yoshida

Depertment of ENT‚ Tokushukai Hospital

 航空機による患者搬送に際して,搬送される患者のみならず搬送に当たる運行乗務員や医療従事者に重大な損害を与える事故は有ってはならないものである。しかし一般道路上の搬送に際しても事故が有り得るのと同様,航空搬送に際しても事故は有り得る。しかも航空搬送であれば,一般の航空事故と同様その損害は極めて重大である。演者は近年益々盛んに行われる様になった航空搬送に水を指す訳ではないが,この問題を重要と考え,第50回大会に「航空搬送に於ける事故例の検討」と題して演題を発表したが,この度新たる事故に接し,再度演題として発表し,学会員諸兄の御批判を仰ぎたい。
 航空機事故一般の事故率を見ると,1980年代には10万時間当たり10〜11件であったが,1990年代には1.5件前後を推移している。このうち航空搬送によるものは一般の事故率よりどの報告でも若干高いが,これは航空搬送の方が飛行を完遂しようとする圧力が高いためと考えられる。
 我国に於ける航空搬送に於ける事故例は,演者が渉猟した限り,前回発表した第1例と今年発表した第2例のみであり,第1例では同乗の医師の被災も有る。この2例とも九州の南西諸島の離島間の患者搬送であり,事故機は1例は固定翼機,もう1例は大型ヘリであり,航空搬送で有名になったドクター・ヘリとは違う機体であり,運用方法も違っている。
 現在に日本で行われている航空搬送の現状を演者なりに纏めてみると,①都市部における一般救急として回転翼機の機動力を生かしたドクター・ヘリ,② 離島間の様な僻地における長距離搬送に対しての固定翼機によるもの,③減圧症の様な特定の疾患で与圧を要し,固定翼機の方が好ましいもの,④その他として,臓器移植患者の国外搬送の為のエア・ラインによるもの等が考えられる。
 事例ごとの事故分析をするのが目的では無いが,事故を予防する為の安全管理の一般論としてSHELLモデルが取り上げられる事が多い。五大要素をソフトウエア・ハードウエア・エンヴァイラメント・ライブウエア二つで本人と周りの人々と表し,特にヒューマン・ファクターの管理としてのコックピット・リソース・マネジメントは重要である。そのためにもパイロットには患者の重症度を知らせないといったことが決められている。
 我国の国土から見た特殊性を考えると細長い列島で離島が多く,航続距離の関係で回転翼機には余る事も有る。この度の事故もこの点抜きには考えられない点が有る。
 事故後の対応としては前回の演題で詳述したが,繰り返すと,①事故調査としては将来の事故の予防という観点から我国も批准している国際条約としてのシカゴ条約に基づいて行われるべきである事,②労災認定に関しては業務上であると考えられる事,③同様の危険に晒される人達の為に保険制度が有るが,従事する人間の数から言って採算面で難しいと思われる事等が問題になる。
 此れら問題点に関して航空搬送が無事に行われるよう考察を行った。