宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 120, 2007

一般演題

H-2. 救命処置中に客室乗務員が経験した感情に関する調査報告

佐藤 菜保子,福池 智子,牧 信子,門倉 真人,松永 直樹,大越 裕文,加地 正伸

株式会社日本航空インターナショナル 健康管理室

Report on the Emotional Experiences of Cabin Attendants during In-Flight First Aid Situations

Nahoko Sato‚ Satoko Fukuike‚ Nobuko Maki‚ Masato Kadokura‚ Naoki Matsunaga‚ Hirofumi Okoshi‚
Masanobu Kaji

Medical Services‚ Japan Airlines International Co.‚ Ltd.

 【目的・方法】 救命処置によるストレスは災害支援者や医療従事者などについて報告例がある。そこで本調査では,就業中に救命処置を行った客室乗務員が経験した感情に焦点をあて,教育や精神的支援のニーズを探索することを目的とした。調査は,2001年10月から2006年10月に日本航空グループの航空機内や空港で発生した救命処置症例32件に関わった客室乗務員101名に対し,無記名自記式配票調査を実施した。分析は,当時の年齢(40歳以上/未満),当時の職位(一般/機内総括以上),路線(国内/国際)の3特性を軸に,「協力者とその評価」と一時救命処置中に感じたこと(不安,絶対に救命したいという気持ち,救命処置を止めたほうがいいのではないかという葛藤,救命処置中の感情調整,救命中のストレス,救命処置中に励みや気持ちの支えになったこと)について度数分布で示し,特性との関連を検討した。
 【結果】 回収率は55.4% であった。救命処置の平均時間は,全体で93.0±95.9分,実際に実施した時間は,55.5分±72.6分であった。実施場所は,「機内の通路」38.2%,「エコノミークラス」32.7% が上位であった。救命中,「乗務員同士の協力」は,94.1%が良かったと評価し,また「医師からの協力」は58.8% 得られ,その76.7% が良かったと評価していた。協力体制で困ったことは,「専門用語や外国語による指示」が上位であった。「救命処置に関する不安」70.9%,「絶対に助けたいという思い」96.4%,「救命処置中にストレスを感じた」75%,「救命処置を止めたほうがいいのではないかという葛藤」は25.3% のものが感じていた。いずれも特性属性に差はみられなかった。救命処置とサービス要員としての立場の間で「感情調整」を必要としたものは73.9%,「他のお客様に心配をかけないように対応した場面」が41.8% と高く,国際線では,「お連れ様を支えようとした場面」,国内線では「イレギュラー発生に対するクレームを受けた場面」が高かった。「救命処置中に気持ちを支えていたもの」は,「一緒に対応していた乗務員の言動」が63.6%,「仕事に対する責任感」60.0% であった。
 【考察とまとめ】 航空機内での客室乗務員による救命処置は,長時間化,蘇生困難の可能性,限定空間での処置,医療従事者との協働,他の乗客への配慮・クレーム処理を含む機内サービス,保安業務の維持という特殊性の中で,ストレスを感じつつも絶対に助けたいという気持ち,乗務員としての責任感のもと相互協力し合いながら実施されていたことが示唆された。日本航空グループでは客室乗務員に対し定期的ファーストエイド訓練を行っている。今後は,技術的指導に加え,救命中には「医療従事者との連携」や「蘇生困難時の対応」に対する不安や戸惑い,救命と平行した「サービス業務」から感情調整が必要になることがありえるが,「乗務員同士の言動」や自身の「職務に対する責任感」が救命処置を実施している中での気持ちの支えとなっていることを,予備知識として付与することは,現場における混乱を避け,より積極的なサポート体制を得るために意義があると考えられる。尚,救命処置後のセルフストレスマネージメントは,先行研究からも推奨されており,予防的な措置として「自然なストレス反応であることを知る」・「人に話すことが大事である」ということについて,今春よりファーストエイド定期訓練に導入した。