宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 119, 2007

一般演題

H-1. 航空機内における急病人発生状況とその救急医療に関する検討

林 弘子,沼田 美和子,大川 康彦,土方 康義,門倉 真人,牧 信子,松永 直樹,大越 裕文,
野口 淑子,宮崎 寛,飛鳥田 一朗,加地 正伸

株式会社日本航空インターナショナル 健康管理室

Trend on in-flight medical emergencies

Hiroko Hayashi‚ Miwako Numata‚ Yasuhiko Okawa‚ Yasuyoshi Hijitaka‚ Masato Kadokura‚ Nobuko Mai‚
Naoki Matsunaga‚ Hirofumi Okoshi‚ Toshiko Nogushi‚ Hiroshi Miyazaki‚ Ichiro Asukata‚ Masanobu Kaji

Japan Airlines International Co.‚ Ltd.‚ Medical Services

 【背景】 近年,高齢旅行者や有病旅行者の増加,旅行の多様化により,旅行中に病気になるケースが増えている。外務省の海外邦人援護統計によると,海外における邦人死亡者数は,ここ20年で倍増している。海外渡航の場合は,99% 航空機を利用することから,機内で発生する急病人についても同様の変化が起こっている可能性がある。
 【目的・方法】 航空旅行中の傷病発生状況の推移を明らかにし,従来行ってきた急病人対策を再評価するため,2005年4月〜2007年3月の2年間に日本航空インターナショナル及び日本航空ジャパンの機内で発生した傷病及び医療関係者からの援助について,急病人発生数,発生率,主症状,ドクターコール件数,ドクターコール応答率,ドクターキット使用率等を,診療記録,乗務員報告書類から集計し,1993年以降の当社データと比較検討した。
 【結果】 2年間に報告された傷病者数は国際線では693例,国内線では320例であった。このうち29.2% が60歳以上であった。症状の内訳は意識障害355例(35%),消化器症状234例(23%),呼吸困難89例(9%),外傷46例(5%),熱傷40例(4%)等で,過去の報告と同様であった。60歳以上の急病人では51% が意識障害,26% が消化器症状であったが,胸痛等の胸部症状の発生が3番目に多く,6% に認められた。<br>
 急病人発生数,10万旅客あたりの急病人発生率は共に増加していた。また医療従事者援助依頼(ドクターコール)を要する症例がこの2年間で62.3% 含まれていた。ドクターコールを要した症例の34.4% で既往歴を有した。
 ドクターコールに対しては,この2年間で国際線では91%(412/451例),国内線では87%(157/180例)で医療従事者から援助が得られ,過去の報告と同様であったが,医師からの援助率は国際線64.3%,国内線53.6% と過去の報告と比べて減少傾向にあった。援助が得られた症例に対するドクターキットの利用率は国際線で22.1%,国内線で10.8% だった。
 【結語】 急病人発生率は増加していたのに対し,医師からのドクターコール応答率は減少していた。今後機内での急病人に対する医療について検討を要すると考えられた。