宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 118, 2007

一般演題

G-4. 人工気象変化(低気圧)への曝露が慢性痛モデル(モルモット)の疼痛行動に及ぼす影響

佐藤 純1‚2,板野 祐也2,舟久保 恵美2,水村 和枝2

1名古屋大学環境医学研究所近未来環境シミュレーションセンター
2名古屋大学環境医学研究所神経系II

Effects of lowering barometric pressure on the pain behaviors in a guinea-pig model of chronic pain

Jun Sato1‚2‚ Yuya Itano2‚ Megumi Funakubo2‚ Kazue Mizumura2

1Futuristic Environmental Simulation Center‚ Research Institute of Environmental Medicine‚ Nagoya University
2Neuroscience II‚ Research Institute of Environmental Medicine‚ Nagoya University

 様々な疾患に起因する慢性痛が気象変化(特に天気の崩れ)によって悪化することは日常経験的に良く知られている。しかしながら,この現象(天気痛)を実験的に解析した研究はこれまで皆無であり,このような痛みの変化は心理的なものとして,その存在については懐疑的な報告もある。そこで,我々は「天気痛」を科学的に実証しメカニズムを解明する目的で,実験動物(ラット)を用いて人工環境曝露実験を行ってきた。これまでの研究成果は以下のようである。
 1) 天候変化でみられる程度の気圧低下(大気圧から10〜27 hPaの減圧)と気温低下(22°Cから7°Cの冷却)環境への曝露は,どちらも神経因性疼痛モデルと関節炎モデルの痛覚過敏行動を増強する。
 2) 気圧低下(大気圧から27 hPaの減圧),気温低下(22°Cから7°Cの冷却)によって健常ラットの血圧,心拍数が上昇する。交感神経系>副交感神経系の自律神経バランスが惹起されたと考えられる。
 3) 神経因性疼痛モデルにみられる気圧低下の疼痛増強作用には交感神経活動が重要である。
 4) 内耳前庭破壊を施した神経因性疼痛モデルにおいては,気圧低下は痛覚過敏行動を増強しない。よって,気圧変化の検出機構は内耳前庭に存在することが示唆される。
 そこで今回は,気圧検出機構を調べる研究の前実験として,内耳操作がしやすいモルモットにおいても気圧低下による疼痛増強が見られるかどうかを調べた。雄性モルモット(250 g)に対し一側のL5腰神経の結紮術(SNL法)を行い(8匹),神経因性疼痛モデルとした。対照群にはSham手術を行った(8匹)。痛みの強さの指標として,3段階の強さ(34‚ 92‚ 197 mN)の圧刺激毛を用いて,後肢足底皮膚を各々10回ずつ刺激したときに後肢を引っ込める回数(逃避回数)を測定した。SNL手術により,逃避回数が有意に増加する現象(痛覚過敏)が術後約3週間持続した。そこで術後1週間経過した段階で,小型気圧調節装置を用いて大気圧より8分間で10または27 hPaの低気圧に曝露したところ,両条件で逃避回数が増加した(増強効果は−10 hPa<−27 hPaであった)。一方,対照群では疼痛行動に影響はみられなかった。以上より,気圧低下により慢性痛が増強する現象はモルモットでも出現することが明らかとなった。今後は慢性痛モデルモルモットを用いて,気圧検出機構の詳細について明らかにしてゆく。