宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 117, 2007

一般演題

G-3. マウスの骨形成に及ぼす過重力負荷の影響

成田 有佑1,中川 雅行1,下井 岳2,大坪 聖3,斉藤 崇史3,岩崎 賢一3,桜井 智野風2,伊藤 雅夫1‚2

1東京農業大学大学院生物産業学研究科
2東京農業大学生物産業学部
3日本大学医学部社会医学講座衛生学/宇宙医学部門

Effect of hyper gravity load on osteogenesis in mouse

Yusuke Narita1‚ Masayuki Nakagawa1‚ Gaku shimoi2‚ Akira Otsubo3‚ Takashi Saitoh3‚ Ken-ichi Iwasaki3
Tomonobu Sakurai2‚ Masao Ito1‚2

1Graduate School of Faculty of Bioindustry‚ Tokyo University of Agriculture
2Laboratory of Animal Biotechnology‚ Tokyo University of Agriculture
3Department of Hygiene/Space Medicine‚ Nihon University School of Medicine

 【目的】 ラットの宇宙実験やラットのテールサスペンション実験などの結果は,微小重力において,骨形成が抑制されることを示している。一方,ラットやニワトリを用いた過重力実験では骨形成が促進されることが報告されている。このように重力ストレスは骨形成において重要な要素の一つであると考えられる。しかし,長期にわたる過重力負荷が骨形成に与える影響について経時的に観察した報告は無い。そこで遠心重力負荷飼育装置で2 G環境下で3世代まで育成したマウスを供試材料として,長期の重力負荷が骨形成へ与える影響を検討した。
 【材料及び測定項目】 供試動物: 3〜15週齢のICR系雄マウス  
 ① G-load群: 2 G環境下で継代育成したマウス
 ② Control群: G-load群と同室内の1 G環境下で継代育成したマウス
 ③ 2 G-off群: 2 G環境で継代育成したマウスを2週間通常環境(1 G)で飼育したもの
 測定項目
 1) 骨形態観察: 軟X線写真による大腿骨,骨盤,頚椎の形態計測(①,② 群)
 2) 骨塩量測定: 大腿骨における,Ca‚ P‚ Mgの測定(①,② 群)
 3) 脛骨の造骨面積の測定: テトラサイクリンをマーカーにして4〜6週齢,及び6〜8週齢における造骨面積を計測(①,②,③ 群)
 【結果及び考察】 I. 2 G環境下で継代育成したマウスは体長・体重がControl群よりも有意に減少し,これに伴い大腿骨や骨盤も小型化していた。しかし重力の影響を強く受けると考えられる頚椎ではControl群よりも大型化していた。これより部位によって骨への過重力の影響が異なっていることが示唆された。 II. G-load群における骨塩量は,Control群に比べて,成長期においては有意に高く,成熟期においては有意に低いことが明らかとなった。III. 脛骨横断面測定の結果より,成長期(4〜6週齢)においてはG-load群の骨形成は促進される傾向を示したのに対して,成熟期(6〜8週齢)ではG-load群で抑制されることが示された。これらのことから骨形成に対する過重力の影響は発育過程によって異なっていることが示唆された。IV. 2 G環境下で育成されたマウスを6週齢で1 G環境へ戻したところ,成熟期の骨形成が有意に増加することが確認された。これはマイナス1Gへの移行が単に造骨を抑制するものではない。