宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 116, 2007

一般演題

G-2. 2G環境下で継代育成されたマウスの成長過程における体重体脂肪量の変化

下井 岳1,中川 雅行2,成田 有佑2,亀山 祐一1,橋詰 良一1‚2,伊藤 雅夫1‚2

1東京農業大学生物産業学部生物生産学科
2東京農業大学大学院生物産業学研究科

The transition of body weight and amount of body fat in mice under hypergravity environment

Gaku Shimoi1‚ Masayuki Nakagawa2‚ Yusuke Narita2‚ Yuichi Kameyama1‚ Ryoichi Hashizume1‚2‚ Masao Ito1‚2

1Faculty of Bioindustry‚ Tokyo University of Agriculture
2Graduate school of Bioindustry‚ Tokyo University of Agriculture

 【緒言】 2 G負荷環境下で継代育成したマウス(G-load群)は,通常の1 G環境で育成したマウスと比較して体重が減少し,体型が小型化することが示されている。G-load群の摂餌量や摂水量には対照群との間に差が認められないにもかかわらず体重低下が生じていることから,G負荷によって消費エネルギーが増大し体脂肪の蓄積量が減少している事が予測される。そこで本研究では,2 Gの過重力負荷がマウスの体脂肪量および酸素消費量に及ぼす影響について検証した。
 【方法】 供試動物: 2 G負荷環境下で継代育成(23世代)したICR系マウスをG-load群とし,同室の1G環境下で飼育したマウスを対照群とした。脂肪抽出・定量: マウスの体脂肪は,胃および腸を摘出した後,ソックスレー脂肪抽出法を用いて抽出・定量を行った。水分含量の測定: 脂肪抽出時と同様に胃腸を摘出した後,乾燥粉砕して測定した。酸素消費量の測定: 体重測定後,α作動性鎮静剤(プレセデックス静注液)を0.02μg/g/時投与して呼気ガス測装置を用いて安静時の酸素消費量を測定した。
 【結果・考察】 生後20〜60日における両群の体重を比較したところ,全ての測定日においてG-load群が有意に低い値であり,23世代目においてもなおG-load群では体重の小型化が認められた。体重あたりの摂餌量・摂水量では対照群との間に有意な差は認められなかった。生後20,30,40,50および60日の成長期における体脂肪量を測定したところ,G-load群では0.79,0.93,2.04,2.69,3.61 g,対照群では1.11,2.01,3.00,3.93,4.66 gであり全ての日齢で有意な差が認められた。両群の体重差が大きいため,除胃腸体重あたりの脂肪重量を比較したところ,同様に全ての日齢でG-load群が対照群と比較して有意に低値を示した。また,水分含量はG-load群で72.6,73.3,69.7,68.7,68.1%,対照群で70.1,70.8,64.9,64.4,63.5% であり,全ての測定日においてG-load群が対照群に比べて有意に高い値を示した。そこで除水分体重あたりの脂肪重量を比較したところ,全ての日齢でG-load群が対照群と比較して有意に低値を示した。1 G環境から2 G環境へ,2 G環境から1 G環境へそれぞれ1週間曝露したものを急性G-load群,G-off群として同様の実験を行ったところ,体脂肪量は急性G-load群においてG-load群に近似した値を示し,G-off群ではG-load群より高く脂肪の蓄積量が増加する傾向が見られた。一方,水分含量は急性G-load群においてG-load群より有意に低値を示し,G-off群ではG-load群に近似した値であった。脂肪蓄積における過重力負荷の影響は比較的短期間で現れるが,水分含量に関しては逆に顕著な変化は見られなかった。
 80〜90日齢の成長期以降のマウスについて,安静時の酸素消費量を測定したところ,雄ではG-load群および対照群でそれぞれ0.126,0.095 ml/g/分であり,雌では0.153,0.142 ml/g/分であり雌雄ともに対照群よりG-load群で高い値を示し,雄においては有意な差が認められ,G-load群では基礎代謝量が増加していることがうかがえた。
 これらの結果は,過重力負荷によって運動時の消費エネルギーが増大し,体脂肪の蓄積量が減少していることを裏付けるものであるが,一方で,自律的な運動のエネルギー源として蓄積脂肪が利用され,体脂肪量の減少をきたしていることが示唆された。