宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 113, 2007

一般演題

F-3. 仰臥位浸水が一回拍出量に及ぼす影響

小野寺 昇1,吉岡 哲2,西村 一樹2,小野 くみ子2,関 和俊2,白 優覧1

1川崎医療福祉大学
2川崎医療福祉大学大学院

Changes of stroke volume during supine position in water

Sho Onodera1‚ Akira Yoshioka2‚ Kazuki Nishimura2‚ Kumiko Ono2‚ Kazutoshi Seki2‚ Wooram Baik1

1Kawasaki university of medical welfare
2Graduate school‚ Kawasaki university of medical welfare

 【背景】 水中環境下では,浮力,粘性抵抗,水圧,水温などの物理的特性が,生体に影響を及ぼすことが知られている。我々は,立位姿勢で浸水することにより静脈還流量が増加し,それらの増加は,水位に依存することを明らかにした(S ONODERA et al. J. Gravit. Physiol‚ 2001)。静脈還流量の変化には,浮力や水圧が影響を及ぼしていることを示唆する。さらに,水中での仰臥位姿勢は,静脈還流量を,陸上での仰臥位姿勢に比べて有意に増大させることも明らかにした。このことから,浅い水深であっても静脈還流量の増大を誘発するのに十分な水の物理的特性が,生体に影響を及ぼしていることを示唆する(S ONODERA et al. European college of sport science‚ 2007)。静脈還流量の増加は,心臓への前負荷の増大につながることから,本研究では,仰臥位姿勢での浸水により増大した静脈還流量が,一回拍出量の増大を増大させるという仮説を立て,実験を行った。
 【目的】 陸上および水中での仰臥位姿勢が一回拍出量に及ぼす影響を比較検討した。
 【方法】 被験者は,健康な成人男性6名とした。被験者の身体的特性は,年齢20.2±0.4歳,身長173.3±6.3cm,体重64.2±6.3kg,体脂肪率2.9±3.0% であった。全ての被験者には,実験内容に関する説明を行い,実験前にインフォームドコンセントを実施した。測定条件は,陸上仰臥位条件および仰臥位浸水条件(水温: 30°C)の2条件とし,各条件中に心拍数および大動脈血流速度の測定を行った。陸上仰臥位条件は,ベッド上での仰臥位安静の状態で,測定を行った。また仰臥位浸水条件は,水温30°Cの真水の入った水槽で行った。被験者の頸部にはネックピローを,また両腋窩および下腿下部の下にフローティングホースをくぐらせるようにして,水面付近に仰臥位姿勢を保った。水槽の大きさは,996mm×2‚196mm×655mm(幅×長さ×高さ)であった。 一回拍出量は,超音波ドップラー法を用いて測定した。2.0Mhzインディペンデント探触子を胸骨柄上端部にあて,血流波形が最大かつ明瞭に描出されるようにし,DVDレコーダーに取り込んだ後,コンピュータ上で,血流速度を算出した。また,超音波エコー法を用いて上行大動脈横断面積を測定し,血流速度と横断面積の積から,一回拍出量を算出した。また,心拍数は,胸部双極誘導法を用い,実験中を通して測定した。
 【結果および考察】 一回拍出量は,陸上仰臥位条件65±5ml,仰臥位浸水条件85±33mlであったが,統計学的な有意差はみられなかった。心拍数は,陸上仰臥位条件54.6±8.4bpm,仰臥位浸水条件53.6±7.0bpmであり,有意な差はみられなかった。先行研究で,仰臥位浸水により静脈還流量が増大し,腹部下大静脈横断面積が増大することを明らかにした。このことから,仰臥位浸水により一回拍出量が増大するものと推測した。しかしながら,一回拍出量は,仰臥位浸水により増加傾向を示したものの有意な増加ではなかった。このことから,浸水による静脈還流量の増大が,一回拍出量の増大に部分的に寄与している可能性が考えられるが,今後更に検討を行う必要がある。