宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 104, 2007

一般演題

D-3. 良性発作性頭位めまい症における耳石機能の回復経過−振子様OVARによる検討−

北島 明美,肥塚 泉

聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科

Evaluation of the otolith function using sinusoidal OVAR in patients with BPPV II

Akemi Sugita-Kitajima‚ Izumi Koizuka

St. Marianna University School of Medicine

 良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo: BPPV)は,外来を訪れるめまい患者のおよそ三分の一の割合を占める疾患である。内耳には回転角加速度を感知する半規管と,重力などの直線加速度を感知する耳石器が存在する。BPPVの責任病巣として,クプラ結石や半規管結石のみならず,耳石機能障害の関与が示唆されている。しかし,BPPV患者の耳石機能を直接検討した報告は少ない。その理由は,臨床応用されている耳石機能検査がほとんどないためである。我々は,耳石機能検査のひとつである偏垂直軸回転検査(off-vertical axis rotation: OVAR)を用い,BPPV症例の耳石機能について検討を行った。その結果,0.8 Hz nose-up OVARにて前庭眼反射の利得がearth-vertical axis rotation(EVAR)に比し減少することを報告した(S-Kitajima et al‚ Neuroscience Letters 2007)。
 本研究ではさらに,BPPV治癒前後で同様の検討を行った。対象: BPPV確実例9名(男性5名,女性4名,平均47.1±15.9歳)。内訳は外側半規管型クプラ結石症6名,後半規管型1名,移行タイプ2名。方法: BPPV改善前(眼振が認められる時点)と改善後(眼振が消失した時点)にOVARと,EVARを行い,両者の利得を比較した。刺激条件は0.4 Hz,0.8 Hz,最大角速度60°/sec振子様刺激,30°nose-up/downである。結果: BPPV改善前では,0.8Hz nose-upにて利得の有意な減少を認めた。他条件では有意差を認めなかった。一方,BPPV改善後では0.8 Hz nose-upにても健常人と同様,利得の有意な減少を認めなくなった。考察: BPPV改善後では健常人と同様,0.8 Hz nose-upでの利得減少は認めないことが判明した。耳石機能が回復した結果,耳石眼反射の緩徐相成分が増加し,nose-up時の利得(=半規管眼反射+耳石眼反射)も増加したためと推定された。
 本研究の方法は,振子様刺激を用いたため,患者にほとんど不快感を与えず検査を行うことができた。その点で耳石機能検査の臨床応用が多いに期待できる方法であると考えられた。