宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 102, 2007

一般演題

D-1. 車載TV 視聴時に生じる車酔いの低減対策

辻 仁志1, 森本 明宏1‚2,井須 尚紀1

1三重大学 大学院 工学研究科
2松下電器産業株式会社 パナソニック オートモーティブシステムズ社

Reduction Measures of Car Sickness Aggravated by Watching on Onboard TV

Hitoshi Tsuji1‚ Akihiro Morimoto1‚2‚ Naoki Isu1

1Faculty of Engineering‚ Mie University
2Panasonic Automotive Systems Company‚ Matsushita Electric Industrial Co.‚ Ltd.

 【はじめに】 近年,後部座席に車載ディスプレイを装備した車が増加して,車内での映像視聴の機会が増加してきている。そのため,車酔い発症者の増加が懸念されており,車酔いを低減する車載ディスプレイの開発1) が必要とされる。そこで本稿では,車の加減速時と右左折時に発生する車酔いの低減を目的とし,加速度および角速度に応じた視運動刺激を付加した映像表示法を考案し,実車実験で車酔い低減効果を検証した。
 【対策案】 乗車中の映像視聴による動揺病の発症原因は,車外前方の景色を見ないために車の動きの情報が視覚に与えられず,視覚情報と平衡感覚情報との間の矛盾が強まることにある (感覚矛盾説)と考えられる。逆に,車の動きの情報を視覚系に与えれば,視覚誘導自己運動感覚(ベクション)が誘起されて平衡感覚情報との矛盾を減少させ,車酔いを低減できると思われる。そこで,車の動きに一致したベクションを与えるような3種類の視運動刺激を映画の周辺に表示して車酔い低減対策とした。対策1: 前進加減速情報を付加した映像表示(加減速に対処),対策2: 遠心加速度とYaw角速度情報を付加した映像表示(カーブに対処),対策3: 対策1,2の複合表示(加減速とカーブに対処)について車酔い低減効果を検討した。
 【実験方法】 実験車には10人乗りのミニバンを使用し,前席のヘッドレストの位置に車載TV(11 inch)を天井から吊り下げた。実験車に被験者を乗車させ,カーブの多い郊外路を21分間走行し,後部座席で映画を視聴させた。被験者には,健康男女76名(男性53名,女性23名)を用いた。実験条件は対策1‚ 2‚ 3での映画視聴,対策を施さない映画視聴,映画を視聴せずに乗車,の5条件とし,計167回の試行を実施して不快感を計測した。走行中,1分毎に不快感の強度を0〜10の11段階で被験者に答えさせた。その際,「0」は不快でない通常の状態,「10」は嘔吐直前の受忍限界状態を表すものとした。評定尺度法による主観的評価の結果を,範疇判断の法則に基づいて距離尺度化した。
 【結果】 すべての乗車条件で動揺病不快感がほぼ直線的に増強した。動揺病不快感の平均強度の時間推移を,原点を通る直線に回帰し,その傾きを算出した。対策を施さない映画視聴時の回帰直線の傾きが,映画を視聴せずに普通乗車した時の傾きまで低減された時を改善率100% と定義すると,対策1は27.1%,対策2は19.2%,3は27.5% の車酔い改善効果が得られた。
 【参考文献】
1) 森本ら: TV視聴時の車酔い低減対策,FIT2006第5回情報科学技術フォーラム,2006