宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 101, 2007

一般演題

C-3. 前庭反射と視運動性眼振の左右差について

野村 泰之1,肥田 和恵1,増田 毅1,須藤 正道2,関口 千春3,石井 正則4,五十嵐 眞5,Jacob Bloomberg6

1日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学系
2東京慈恵会医科大学 細胞生理学講座内・宇宙航空医学研究室
3日本宇宙航空研究開発機構・宇宙医学グループ   
4東京厚生年金病院耳鼻咽喉科   
5日本大学総合科学研究所
6アメリカ航空宇宙局ジョンソン宇宙センター Neuroscience Laboratories

Asymmetry of vestibular reflex and optokinetic nystagmus

Yasuyuki Nomura1‚ Kazue Hida1‚ Takeshi Masuda1‚ Masamichi Sudoh2‚ Chiharu Sekiguchi3‚ Masanori Ishii4
Makoto Igarashi5‚ Jacob Bloomberg6

1Department of Otolaryngology - Head and Neck Surgery‚ Nihon University School of Medicine
2Division of Aerospace Medicine‚ The Jikei University School of Medicine
3Japan Aerospace Exploration Agency‚ Space Medicine Group
4Department of Otorhinolaryngology‚ Tokyo Kosei Nenkin Hospital
5University Research Center‚ Nihon University
6NASA Lyndon B. Johnson Space Center Neuroscience Laboratories

 【はじめに】 内耳にある前庭器(耳石器・三半規管等)は,重力や加速度などの入力情報をもとに前庭動眼反射・前庭脊髄反射などの出力によって体平衡・空間識のシナジー・統制に関与している。これらの前庭反射機能には左右差があるかもしれないという知見が散見され,もし左右差があれば将来的に異重力環境におけるマンマシンインターフェースへの影響も考えられる。そしてこれらの前庭反射機能が異重力環境に暴露された際の適応・再適応過程は未だ十分に解析されておらず,今回,前庭動眼反射の左右差をベッドレスト実験の結果から検討した。
 【方法・対象】 以前,JAXA筑波宇宙センターで施行した7日間ベッドレスト実験研究の際に取得した視運動性眼振データを再解析した。健常成人男性被験者6名(平均25.8歳)の7日間6度ヘッドダウン・ベッドレスト実験で視運動性眼振(optokinetic nystagmus: OKN)刺激を与え,電気眼振図検査を施行し視運動性眼振とそれに続く視運動性後眼振(optokinetic after-nystagmus: OKAN)を記録した。身体長軸に対して水平左右両方向にランダムドットパターン模様を1分間半球ドーム型スクリーンに投影し,ベッドレスト前日(座位),1・3・5日目(仰臥位),7日目ベッドレスト終了後(座位),終了翌日(座位)の6時点で計測した。刺激速度・方向は右向き60度/秒→左向き60度/秒→右向き80度/秒→左向き80度/秒の順で各刺激間は3分間以上の十分な休息を施行した。
 【結果】 60度/秒のOKN測定において実験期間中6時点を通して右向きへのgainが左向きよりも有意に高かった(Repeated ANOVA p<0.05)。80度/秒のOKNには右向き優位の傾向はあったものの有意差は生じなかった。OKANでは60度/秒,80度/秒ともに右向き優位は無かった。
 【考察・結語】 過去の知見ではOKNや前庭反射の方向優位性について,右向き刺激の方がgainが高いという報告,片眼視では耳側向きより鼻側向きが速いとの報告,左右差ははっきりしないという報告,繰り返しの視覚刺激によって前庭反射が適応・慣性を示す報告などが散見される。
 これらをまとめて考えると何らかの繰り返し入力刺激によって潜在的に右向きに適応(蓄積)している者たちの存在も否めない。その要因としては日常生活習慣の蓄積,とくに左から右に文字の流れる読書・横書き習慣の普及も考えられるが,被験者数の増員も含めて今後のさらなる検討が考えられた。