宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 100, 2007

一般演題

C-2. 段階的重力負荷が前庭小脳系に及ぼす影響(第2報)

山本 哲也1‚2,高田 宗樹1‚2,岩瀬 敏1,山口 喜久3,平柳 要3,高田 真澄4,田中 邦彦5,増尾 善久6
塩沢 友規7

1愛知医科大学医学部生理学第2
2岐阜医療科学大学保健科学部
3日本大学医学部衛生学部門
4
名古屋大学大学院医学系研究科
5岐阜大学大学院医学研究科
6早稲田大学エルダリーヘルス研究所
7青山学院大学経営学部

Effects of graded load of artificial gravity on vestibulocerebellum in humans (2nd Report)

Tetsuya Yamamoto1‚2‚ Hiroki Takada1‚2‚ Satoshi Iwase1‚ Tomoki Shiozawa1‚3‚ Yoshihisa Yamaguchi3
Kaname Hirayanagi3‚ Masumi Takada4‚ Kunihiko Tanaka5‚ Yoshihisa Masuo6

1The Second Department of Physiology‚ Aichi Medical University School of Medicine
2Department of Radiological Technology‚ Gifu University of Medical Science
3Department of Space Medicine and Hygiene‚ Nihon University School of Medicine
4Graduate School of Medicine‚ Nagoya University
5Gifu University Graduate School of Medicine
6Research Institute for Elderly Health‚ Waseda University
7Aoyama Gakuin University School of Business

 【はじめに】 直径4mの棒状回転体を回転させることにより生ずる遠心力で人工重力を発生させ,同時に自転車エルゴメーターを具備した装置(遠心器)がこれまでに製作され,長期微小重力曝露に伴う心循環系デコンディショニング・筋萎縮・骨粗鬆の対抗措置として有効な印加重力および運動量が検討されている。また,重力耐性は個人差が大きいため,擬微小重力曝露の前・後においてこれを計量する試み(耐G試験)がなされている。対抗措置として印加される人工重力および耐G試験における重力負荷が前庭小脳系に及ぼす影響は現在のところ明らかにされていない。そこで,本研究ではこの影響を検討することを目的として,遠心器を利用した耐G試験前・後において重心動揺検査を行った。また,前報検査項目に加え,遠心器運転中の加速度計測を行った他,ElectroOculoGraphy(EOG)法による眼球運動を記録,評価した。
 【材料と方法】 耐G試験: 足先方向に1G(10分間),1.2G(5分間),…,2G(5分間)の重力を印加した。ただし,急激な心拍・血圧低下時および被験者希望時には重力負荷を中止した。実験に対する同意を得た8名の若年男性を被験者として,上述の段階的重力負荷を行った。検査項目: 遠心器を利用した耐G試験前・後において,日本めまい平衡医学会の基準に準拠して重心動揺検査を行った。それぞれ立位姿勢を安定させるために1分間直立し,その直後より開眼および閉眼にて各々1分間連続して測定した。検査事項として動揺図の既存の指標に加えて,疎密度や,立直り反射を表現する図形(鎖)に関する指標を入れた。統計処理は動揺図の指標ごとに,視覚情報の有無(開眼/閉眼)と段階的重力負荷の有無(耐G試験前・後)を因子として繰り返し数8の二元配置分散分析を行った。更に,開眼と閉眼に分けて,段階的重力負荷の有無についての比較をWilcoxonの符号順位和によって行った。また,遠心器回転5分前から同器停止時まで,同器の加速度および,水平・垂直方向の眼球運動をそれぞれ,アクティブトレーサー(AC-301),Polymate AP1000を用いて計測,記録した。ノイズ成分の大きいEOGについては5分間ごとの測定区間に区切り,Waylandアルゴリズムにより1次元埋め込み空間における並進誤差を推定した後,Fredman検定によって統計的な比較を行った。本研究では有意水準を0.05とした。
 【結果および考察】 前報と同様に開眼時では,総軌跡長および鎖に関する指標の値が有意に増大したが,閉眼時においては変化を認めなかった。従って,①視覚系と前庭系の情報が矛盾し,視覚-前庭系刺激により発現する眼球運動に由来するものと考えた。②重力負荷に対してRomberg徴候(−)と考えられ,この負荷は体性感覚にはそれほど影響しない可能性が示唆された。そこで,前者について検証するため,前安静時と加速度変化の大きかった回転開始後・停止前のそれぞれ5分間におけるEOGについて吟味した。その結果,前安静時を除き,被験者の多くに急速相・緩徐相を伴う波形がみられた。眼振とみられる波形を確認した。前庭性眼振に由来するとみられるこの波形はノイズ成分の大きいEOGの規則性を高め,前安静時と比較して1次元埋め込み空間における並進誤差を有意に低下させた(p<0.01)。
 【まとめ】 前報では重心動揺検査にて段階的重力負荷後の開眼時の動揺量増大は,視覚-前庭系の感覚不一致が原因と考えた。その検証を行うために,今報ではEOG法による眼球運動を計測して,遠心器の回転開始後・停止前における前庭性眼振を確認することを試みた。