宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 99, 2007

一般演題

C-1. ヒラメの耳石器と眼球運動の関係

岩田 香織1,高林 彰2

1藤田保健衛生大学大学院医学研究科
2藤田保健衛生大学衛星学部

Relationship between otolith organ and eye movements in flatfish

Kaori Iwata1‚ Akira Takabayashi2

1Graduate School of Medicine‚ Fujita Health University
2School of Health Sciences‚ Fujita Health University

 宇宙の微小重力環境では,耳石器への入力が消失することにより種々の機能的変調が生じる。重力入力の消失によって傾斜刺激が意味をなさないが直線加速度刺激は有効な刺激として働き,地上とは異なった感覚を生じ,これが姿勢調節や眼球運動の変調を誘発する可能性が示唆されている。金魚の宇宙実験では,ローリングやルーピングの異常行動が観察されている。我々はこれまで,金魚を用いた加速度や傾斜による実験あるいは片側耳石摘出による順応性について検討を行なってきた。ヒラメやカレイでは,ふ化後眼球が片側へ移動を始め,40日間かけ成魚では前庭系と視覚系が通常の魚に比べて90度偏倚した状態で1 G環境での前庭系と視覚系の順応が行なわれていることになる。そのため,ヒラメやカレイが微小重力環境に暴露されると,かなりの感覚混乱の生じることが予想される。今回,ヒラメの耳石器官の働きが通常の魚とどのように異なるかを体傾斜刺激による重力変化に対する眼球運動を指標として検討した。
 実験には生後8ヶ月のヒラメと生後20ヶ月のヒラメを用いた。ヒラメが実験中暴れないように,ヒラメの口に管を銜えさせてヒラメを上下から挟み込んだ。ヒラメの頭上にはLEDを固定し,刺激が加えられると点滅する仕組みとし,ビデオ画像上に刺激のタイミングを映し込んだ。ヒラメの垂直眼球運動を記録するため,前方にビデオカメラを取り付け,LEDが眼球運動と同時に記録できるカメラアングルとした。ヒラメの傾斜刺激方向は,右傾斜,と左傾斜の2種類を区別した。傾斜角度は,30,60,90,120,180度の5通り行なった。ビデオカメラで記録した画像をコンピュータにより垂直眼球運動解析を行なった。解析方法は,最初に基準となる直線を決めて,眼球角度にあわせた2点を結ぶ直線との角度を求めた。反時計方向の回転を+,時計方向の回転を−と表記した。傾斜刺激パターンの各刺激直前の基準時の眼球運動角度と傾斜後の垂直眼球運動角度の差を求め垂直眼球運動の大きさとした。
 ヒラメの垂直眼球運動は,左右傾斜刺激で大きく,その方向は頭部傾斜を代償する方向であった。しかし,180°傾斜刺激では,右傾斜刺激に対する反応の方向が130°付近で反転した。これは,左傾斜が通常の魚の前庭位置にもどる刺激であり,右傾斜刺激は通常の魚では上下反転する方向の刺激であることに関係すると思われた。左側卵形嚢耳石の摘出によって,両眼の垂直眼球運動の大きさは傾斜方向に関係なく減少した。また,180°傾斜刺激に対して,ヒラメに特徴的な反応は消失した。ヒラメでは眼球と前庭器が90度偏倚しているにもかかわらず,地上の重力環境に順応した垂直眼球運動を示した。卵形嚢耳石器が垂直眼球運動に関与していることが推定されたが,今後,球形嚢耳石器や壷嚢耳石器の関与を解析する必要がある。