宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 96, 2007

一般演題

B-1. 下半身陽圧負荷を利用した歩行訓練装置の開発

河合 康明,松尾 聡,大西 弘志

鳥取大学医学部適応生理学

Rehabilitation Apparatus for Treadmill Walking using Lower Body Positive Pressure

Yasuaki Kawai, Satoshi Matsuo, Hiroshi Ohnishi

Division of Adaptation Physiology, Faculty of Medicine, Tottori University

  【目的】 地球上において立位で行動する場合,体重を支える力が必要である。歩行運動をすると,抗重力筋に加わる力は体重の1.3倍であると云われている。病気や怪我からの回復過程で行なわれるリハビリテーションとして,歩行訓練は重要である。しかし,筋力低下や筋痛を訴える患者が歩行訓練を行なうためには,医療スタッフの手を借りるか,補助器具を必要とすることが多い。歩行器,平行棒,杖といった従来の補助器具は,上半身の力を必要とするため,高齢者のリハビリには適していない。そこで本研究では,下半身陽圧負荷を利用して,抗重力筋に加わる体重負荷を軽減することのできる歩行訓練装置を開発し,歩行中の筋骨格系パラメータに及ぼす影響を検討した。
 【方法】 見かけの体重を軽減する方法として下半身陽圧負荷(LBPP)を利用し,トレッドミルと組み合わせた歩行訓練補助装置を試作した。健康な成人ボランテイア(男性10名,女性5名)を対象とし,体重軽減をしないコントロール状態と体重軽減状態で,4 km/hの速度でトレッドミル歩行を行ない,その間ヒラメ筋の筋電図,歩幅を測定し,体重軽減の影響を調べた。
 【結果】 LBPPを負荷すると,見かけの体重は直線的に減少し,2 キロパスカル(15mmHg)のLBPPにより,見かけの体重は約30kg減少した。静止時の筋電図活動は,LBPP負荷により変化は認められなかった。対照群(LBPP負荷なし)では,歩行中の筋電図活動は,静止時と比べて2.5〜3.5倍に増加した。LBPP負荷によりみかけの体重を約半分に軽減すると,歩行中の筋電図活動増加は有意に抑制された。また,男性被験者では,LBPP負荷により歩幅が有意に延長した。
 【考察】 本装置を用いる事により,歩行中の抗重力筋に加わる負荷を軽減でき,回復早期のリハビリテーションに有用であることが示唆された。同様の装置の開発は,共同研究者であるHargens博士(米国カリフォルニア大学)らが行なっている。米国の装置と我々の装置の違いは,負荷する圧力の大きさにある。我々は装置のデザインを工夫することにより,同じ体重軽減を達成するのに必要な装置内圧力を低圧(15mmHg)に抑えた。リハビリテーションを必要とする高齢者の中には,循環器障害を有する患者も少なくない。そうした患者には,LBPP負荷が循環器系に及ぼす影響を最小限にする配慮が必要である。こうした観点からも,我々の開発している装置は優れていると考えられる。