宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 4, 94, 2007

一般演題

A-2. 航空自衛隊における空間識訓練 〜新訓練装置導入による訓練の改善〜

高田 裕子1,本橋 清1,久田 哲也1,武井 英理子2,酒井 正雄1,高田 三郎1

1航空自衛隊 航空医学実験隊
2防衛医科大学校防衛医学講座

Spatial Disorientation Training in the Japan Air Self-Defense Force: the Improvement of the Training Effectiveness by Introducing New Spatial Disorientation Trainer

Yuko Takada1, Kiyoshi Motohashi1, Tetsuya Hisada1, Eriko Takei2, Masao Sakai1, Saburo Takada3

1Japan Air Self-Defense Force Aeromedical Laboratory
2National Defense Medical College, Tokorozawa, Saitama

 【目的】 空間識失調は,航空機大事故に関わる重要な因子の1つである。航空自衛隊では,平成3年度より操縦訓練開始前の学生(飛行学生)を対象に,4軸制御の訓練装置(旧装置)を用いてリーン錯覚などの模擬錯覚の体験訓練を行ってきた。今回,4軸制御の新しい訓練装置(新装置)を導入し,平成19年6月より本訓練を一新した。新たに導入した装置は旧装置に比べ,コンピュータグラフィクス性能,動力装置性能,航空機のシミュレート機能,プロファイル作成機能等が向上している。被訓練者がコントロールしつつ再現可能な錯覚数も4種類から13種類に増した。本研究では,新装置の訓練について,旧装置との機能,錯覚体験率の比較による解析を行った。
 【方法】 航空自衛隊飛行学生164名(新装置: 33名(22.8±2.1歳),旧装置: 131名(23.0±2.2歳))を対象とし,訓練後に体験した錯覚,心理的,身体的症状を質問紙により回収した。SD訓練飛行では,旧装置では,4種類(夜間の水平線誤認錯覚,体重力錯覚,リーン錯覚,コリオリ錯覚),新装置ではさらに昼間の水平線誤認錯覚,太陽光による垂直方向の誤認,光源誤認錯覚を追加した。分析は,水平線誤認,体重力錯覚,リーン錯覚の体験率について,新旧装置の比較を行った。
 【結果及び考察】 新装置では,7つの錯覚のうち,4つの錯覚について95% 以上の学生に体験されていた。しかしながら,水平線誤認錯覚(昼間),太陽光による誤認錯覚,光源誤認錯覚については,若干体験率が低く,約90% であった。夜間の水平線誤認錯覚,体重力錯覚は新旧装置で体験率に有意な差が認められ(P<0.01, P<0.05), 旧装置では71% であった体験率が新装置では97%に向上した。リーン錯覚については, 旧装置で再現できなかった姿勢指示器と感覚との矛盾を新装置に搭乗した被訓練者の全てが体験しており,新装置導入により錯覚の再現性が向上したことが示唆された。
 【結論】 本研究の結果から,新訓練装置の導入によって,前庭性錯覚,視覚性錯覚の再現性が向上し,飛行学生への訓練効果の向上が示唆された。