宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

認定医シンポジウム

「空の安全のため宇宙航空医学認定医が活躍する !
—— 認定医の様々な役割と今後の課題 ——」
AM-5. 医学部における航空医学教育,学会認定医のこれまでの経過と今後

岩崎 賢一,西村 直子

日本大学医学部社会医学講座衛生学/宇宙医学部門

Education of Aviation Medicine, the progress of Board-certification in Aerospace Medicine

Kenichi Iwasaki, Naoko Nishimura

Department of Hygiene/Space Medicine, Nihon University School of Medicine

日本大学医学部では1年次に,医学概論として宇宙航空医学をとりあげ,入学間もない学生にこの分野の紹介を行っている。3年次には,宇宙医学講義,航空医学講義,JAXA筑波宇宙センターの見学を行い,宇宙航空医学の知識を教えている。6年次においては,特殊な形式の授業 “Patient Management Problem Core Curriculum (PMP-CC)” を行っている。3年次の講義や見学において,宇宙航空医学に従事する医師がその専門的知識を学生に教えることが重要であるのは言うまでもないが,6年次の特殊授業に認定医や航空関係者に参加して頂くことの重要性は特に大きい。本授業は,衛生学部門の教員が受け持ち,担当グループ学生10〜15人が「航空機内での急病人発生に医師が居合わせる」場面を想定したシナリオを作成して,他の学生の前で劇を演じ,それを見た学生が様々な問題を身近に考えるという形式で行う。ゲストとして日本航空の医師・看護師・客室乗務員に参加して頂き,劇中では,実際の航空機搭載の医療器具を使用し,ドクターコールは,客室乗務員の方に実演して頂いている。この様な工夫で,現実味をもたせることに力を注いでいる。また休み時間には,劇中で使用している実際の航空機搭載の医療器具・薬品(ドクターズキット,メディスンキット,レサシテーションキット,AED)を展示し,学生に手に取らせながら,ゲストに説明して頂いている。劇の間には,「機内で急病人が発生した時,医師として名乗り出るか名乗り出ないかについてのディベート」を挿入して,機内医療に関する諸問題(航空機内環境,機内の医療設備,患者の使用言語によるコミュニケーションの問題,医師の過失責任,航空会社の責任,適用される法律)について,医師として名乗り出た場合と名乗り出なかった場合の功罪を双方の立場から討論させている。ディベートはテーマ別の小パートに分け,各テーマの間に,ゲストの医師・看護師・客室乗務員から,機内医療に関する講義,乗務中の経験談等を話して頂いている。この授業では,航空医学に関する正確な知識を身につけたうえで,現状をより身近に感じとり,学生が真に悩み考えることを目的としていることから,航空医学関係者の参加は非常に意義深いと考えられる。今後,より様々な体験や主業務をもつ認定医に参加して頂き,専門的知識や経験を教えて頂くことで,より良い航空医学教育が実施できると考えている。
 二年前より運用が始まった認定医制度においては,2004〜2006年度合計で80人が宇宙航空医学認定医として当学会から認定された。また,認定された医師の主業務の内訳は,航空会社医師8人,防衛医官6人,団体職(JAXA,航空医学研究センター)4人,航空機乗務員2人,一般勤務医 27人,開業医9人,教職・研究職24人となっている。この制度の運用において,認定医の認知度を高め,活躍の場を広げるための企画案を認定委員会では検討中である。その例としては,1) 学会ホームページに認定医リストを載せ,各認定医のホームページ等へリンクを張る,2) 宇宙と航空を分け専門医を設ける,3) 年次大会の時に「認定医の集い」を開催し交流を促進する,4) 国交省の指定航空身体検査医制度との間で,講習会の相互活用や一部免除制度,生涯教育という面でリンクさせる,などがある。今後この様な企画が実施され,認定医の役割を発展させていくことが重要であると考えている。