宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

認定医シンポジウム

「空の安全のため宇宙航空医学認定医が活躍する !
—— 認定医の様々な役割と今後の課題 ——」
AM-3. パイロットの立場から

篠崎 恵二

鞄本航空インターナショナル B777 運行乗員部

Views from a ilot's Standpoint

Shinozaki Keiji

Japan Airline Intaernational Co., Ltd B777Flight Crew Department

定期航空会社パイロットの養成には,航空大学校,自社養成の大きく二つのコースがある。いずれにしても副操縦士として乗務するまでには,約4年半から5年の期間が必要となる。その後も,乗務のためには技能証明と,第1種航空身体検査証明を保持し続けることが必要となる。技能面は,知識および能力について各種の訓練,審査を受けなくてはならない。また一定期間中の飛行経験も満たす必要がある。
 国際線乗務の例として日本−ロンドン間の飛行をみると,運行乗務員は交代要員を含めて3名編成で,飛行時間は12時間を越える長時間乗務である。日本を正午頃に出発し,ロンドン到着は日本時間の夜12時過ぎとなる。また,帰りのロンドン出発は日本時間の深夜3時頃であり,日本到着は15時頃となる。
 航空身体検査を受検する側からみると,日本は検査項目も多く,外国の基準と比較して日本の基準は厳しいと思わせるところも少なくない。特に薬品の扱いについては欧米諸国と大きな差異があると思われる。また審査会の判定については,一部不透明感を感じることもある。
 飛行中の機内,職場には,さまざまな特殊な環境が存在している。いくつかの例を挙げると,長時間の飛行は長時間の勤務となるばかりでなく,時差の大きな地域間の飛行や,日本時間の深夜早朝時間帯の飛行を余儀なくされる。これらは過度の疲労をもたらし,能力の低下や眠気となって現れる。また,これらが特に運行ストレスの多い離着陸や悪天候,機材故障と重なると,その危険度は更に高まると感じている。宇宙放射線の被曝も高高度,高緯度,長時間の飛行では軽く扱えない。また,操縦室の明るさ一つをとっても,夜間飛行での真っ暗な状態から,日の出の太陽光を真正面から浴びるような状態まで,1回の飛行の間で大きく変化する。これらが目に与える影響は小さくないと感じている。
 機内で急病人が発生した際には,パイロットは地上関係部署へ連絡し,医師の助言等を依頼する。それと合わせ,状況により高度,航路,速度等の変更を管制機関に要求し,迅速に適切な空港へ着陸され,医療機関へと引き継ぐ。ここでパイロットが適切な判断を行うためには,医師の診察または助言が必要となる。Crew Incapacitationは,その防止のために乗務前の健康管理と,飛行中の早期発見が大切である。また航空身体検査は,その防止が最大の目的とされる。
 今後の民間航空の更なる安全の為に,医学分野においてその中心的役割を担う認定医の先生方に対し,パイロット立場から以下のような点について要望したい。(1) 最新の航空医学上の知見を取り入れた身体検査基準の適切な見直し,随時の変更,国際的な標準化,基準見直し検討時の乗務員の参加,(2) 審査会判定の透明化適正化,(3) 疲労やサーカディアンリズムの研究に基づく医学的見地からの乗務や勤務基準の適正化,(4) 機内環境の調査研究に基づく改善,(5) 機内医療体制の更なる改善,および着ない医療に関する法整備への働きかけ。以上,定期航空会社パイロットを取り巻く航空医学の現状に関して,パイロットである認定医の一人として私見を述べさせて頂いた。