宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

宇宙基地医学研究会

MERSS-2. JAXAの宇宙服開発の試み

山方 健士

宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部 有人宇宙技術開発グループ

JAXA's Attempt for Space Suit Development

Kenji Yamagata

Japan Aerospace Exploration Agency
Human Space Technology and Astronauts Department
Human Space Technology Development Group

現在,国際宇宙ステーションに続くミッションについて多くの議論が行われている。JAXAとしても同様で,「JAXA長期ビジョン」を打ちたて,これから先の宇宙開発について検討が行われている状況である。その一環として,今後,有人による宇宙開発が検討されており,これを実現するために人が宇宙へ出て活動する際に必要となる「最小の宇宙船」である宇宙服についても検討がされている。将来の宇宙服は現在の軌道上での国際宇宙ステーションの組立・修理等の船外活動のためだけでなく,打上・帰還,地球周回軌道及び月面での船外活動,緊急時の生命維持などにも利用可能なものにする必要がある。すなわち,一着の宇宙服でこの全ての条件を満たすようにしなければ,ならない。その大きな理由としては:
 宇宙機を打上げるための重量が増える=
  燃料を増やすか,月面に持っていく物品を減らさなければならない
 宇宙機内の保管スペースが無くなる=
  宇宙服を収納するためのスペースが必要になる
 月に向かう航路で宇宙機全体が減圧される可能性がある=
  人数分の宇宙服を持っていく必要なため,重量/スペース確保が必要
 現存の宇宙服は1960年代に存在していた技術の利用,もしくは新規に材料/技術開発を行い作られたものだが,アポロ計画の宇宙服を除き,地球周回軌道の微小重力環境での利用を目的に開発されている。
 現在,JAXAとしては月面での有人活動に向け,有人宇宙機以外での人間の宇宙空間での活動を可能とする宇宙服を既存の技術を組み合わせることで開発することが可能か検討を行っている。この開発にあたって,重要なのは,宇宙機と違い,「乗る」のではなく「着る」ということであり,また,長時間その中に人間が入ることから,放射線/宇宙線による被曝からの防護,飲食,排泄を全て宇宙服の中で行えるようにする必要があり,月面で万が一の際に救援を待つまでの間,快適性も確保する必要がある。これら条件を満たすためにJAXAが宇宙服を研究・開発するにあたり,取り込まなければならないのは医療的技術であると考えている。現在,JAXAは宇宙服開発に向け,様々な技術情報を収集中であり,2016年までの国際宇宙ステーションでの実証,2018年以降の月面での利用に向け,作業を開始している。