宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

宇宙基地医学研究会

MERSS-1. 月・火星有人探査計画とJAXAの関わり

阿部 貴宏

宇宙航空研究開発機構

JAXA Vision on Human Space Exploration to the Moon and Mars

Takahiro Abe

Japan Aerospace Exploration Agency

ここ数年,海外の宇宙機関から相次いで,月・火星有人探査計画が発表されている。有人月探査を含む米国の宇宙探査ビジョン,2030年代の有人火星探査を目指す欧州のオーロラ計画,中国も独自の月探査計画「嫦娥」の中で有人月探査を視野に入れている。
 このような国際動向の中,JAXAにおいても,長期ビジョン(2005年3月31日)の中で,有人宇宙活動の継続・発展のひとつの方向性として我が国が月面拠点有人活動に取り組む可能性について提案した。具体的には,「有人月面拠点への準備」として,「これまで培ってきた有人宇宙活動能力を最大限発揮し,継承・発展させていく」,「(20年後頃に想定される国際有人月面拠点の開発計画において,)我が国の主体性を確保しつつ,科学技術創造立国としての応分の国際的貢献と役割を担うことをめざす。」とした。
 現在,JAXAでは,このビジョンの実現に向け,組織横断的な検討チームを組織し,研究・開発計画の検討を行っている。
 1. 我が国の有人宇宙技術開発の状況
我が国は,スペースシャトルを利用した宇宙実験への参加により,有人宇宙技術の開発を開始した。宇宙実験の実施を通じて,有人宇宙機に搭載する実験装置の開発,宇宙実験を行う宇宙飛行士の選抜・訓練・健康管理,それらを統合した実験運用等,有人宇宙活動の基盤となる技術を獲得した。
 次の段階は,国際宇宙ステーション(ISS)計画への参加である。我が国は,「きぼう」日本実験棟及び宇宙ステーション補給機「HTV」の開発等をもってISS計画に参加しているが,これにより,大規模,複雑な有人宇宙システムに係る開発管理・システム統合技術,有人安全技術,有人システム設計・開発・試験技術,補給機技術等を獲得した。今後,きぼう,HTVの運用を通して,開発で培った技術を確認・実証し,有人宇宙技術を真に我が国のものとして浸透・発展させていく予定である。
 2. 有人月探査に向けた検討の状況
 JAXAでは,今後,これまで修得した技術を継承・発展させ,国際協力で進められるであろう有人月探査計画に参加し,応分の貢献と役割を担うことを想定している。
 そのため,2015年までは,基盤技術確立のため,ISS,きぼう,HTVを利用して有人宇宙技術の維持・発展を図るとともに,SELENEを始めとする無人月探査により,月の科学的知見や利用可能性に係る情報を獲得しつつ,探査技術の確立を図る計画である。確立した技術・知見に基づき,国際協力による有人月探査に我が国が本格的に取り組むか否かを,広く国内で議論し判断を行うことを想定している。
 その後,有人宇宙活動の場を,国際協力による有人月探査に移し,将来の我が国独自の有人宇宙活動,火星以遠への有人探査等にも発展可能な有人宇宙技術及び知見の獲得を図る計画である。