宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

シンポジウム

「内耳前庭系と循環調節」
S-4. ヒトでの重力受容器系—交感神経反射の検討

青木 光広

岐阜大学大学院 医学系医学研究科 耳鼻咽喉科学分野

Study on graviceptive sympathetic reflex in human

Mitsuhiro Aoki

Department of Otolaryngology, Gifu University Graduate School of Medicine

一側の急性前庭障害は吐き気,嘔吐,発汗など自律神経症状が出現することや,慢性前庭障害症例でしばしばみられる起立不耐症などは,前庭と自律神経系の関連を強く支持するものと思われる。また,直立位からの傾斜や直線加速度を伝える重力受容器である耳石器は,血圧制御に関与する姿勢の急激な変化を中枢に伝えるのに非常に適していることから,自律神経系制御には重要であると推察される。しかし,耳石器・交感神経反射のヒトでの意義は不明である。第一の実験では,リニアチェア-に装備したLEDがチェアー加速度に同期して動くシステムを使い,それにあわせて頭部を前屈あるいは後屈させた。それにより,頭部Z軸方向への慣性重力ベクトルが一致する条件と不一致になる条件を作成した。その加速度刺激後3-9秒の動脈血圧の変化はZ軸方向と慣性重力ベクトルが一致する条件では,不一致になる条件に比べて有意に少なく,安定していた。心拍数においては条件による違いはなかった。また,両側前庭機能高度障害例では健常成人に比べて,直線加速度刺激による血圧増加は有意に低かった。こうした反応における前庭以外の体性感覚や内臓重力受容体の関与は否定できない。また,左右前後いずれの方向への加速度刺激においても血圧増加は一定であったことから,加速度刺激に伴う血液のシフトの影響は否定的と思われ,繰り返しの刺激によるHabituationもみられないことからstartle responseに伴う影響も少ないと考察した。従って,加速度刺激後短い潜時での血圧上昇に,前庭耳石-交感神経反射は関与していると思われた。第二の実験として,耳石あるいは半規管麻痺のある症例でシェロング起立試験を行った。耳石機能には視性自覚的垂直位(SVV)を用いた(SVV>2° を異常とした)。また,半規管機能評価にはエアーカロリックテスト(冷温交互刺激法)を用い,CP25% 以上を異常とした。両側前庭機能高度障害例は上村法で両側ともに最大緩徐相速度が10度/秒未満のものとした。SVV>2° かつCP>25% の群ならびに両側前庭機能高度障害例群では,シェロング試験起立直後の拡張期血圧上昇が見られなかった。こうした結果はめまい患者特有の全般性交感神経機能低下の関与は否定できないが,起立負荷に伴う血圧変化において,前庭耳石-交感神経系の障害が少なくとも存在する可能性が示唆された。本研究の一部はGresty MA (Imperial College, UK),Yates BJ (Pittsburg Univ., USA)との共同研究である。