宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

47. 戦闘機の長時間飛行における疲労について

竹内 由則

航空医学実験隊

Fatigue in Jet Fighter Pilots during Long-haul Flight

Yoshinori Takeuchi

Aeromedical laboratory, Japan Air Self-Defense Force

航空自衛隊のF-15戦闘機は4年前から,毎年夏に米空軍がアラスカで実施している多国籍間演習コープサンダーに参加しているが,その際,片道約7時間の飛行が必要である。戦闘機の飛行時間は通常1〜2時間程度であり,7時間は操縦者が経験したことのない非常に長い飛行であることから疲労調査を行った。操縦は給油機に追随しての水平直線飛行であり,困難さや緊張感を伴うものではなく,また,経路の大半が洋上であり,視覚的刺激に乏しい環境である。本調査は,言い換えると長時間の単調作業における疲労の変化を測定したものである。
 1飛行あたり6機(うち2機は復座機)のべ8名のパイロットについて3往復分,つまり48名のデータを収集した。30代が主体の男性である。
 主観的疲労は,飛行時間を示す直線上に,「疲労を感じた」場合は1本のラインを,「強い疲労を感じた」場合はさらに2本目のラインを引かせるという方法で評価した。
 生理的疲労は,飛行前後の尿を採取し,アドレナリンとノルアドレナリンの濃度を測定した。分析は,THI(トリヒドロキシインドール)法にて,高速液体クロマトグラフィー(LC-10 Avp,島津製作所社製)を使用して行った。カテコールアミン濃度は,クレアチニン測定キット(オートA「ミズホ」CRE,ミズホメディー株式会社製)と自動分析装置(7,080,日立製作所社製)を用いて尿中クレアチニンを測定し,100 mgクレアチニン(100 mg Cr.)当たりとして表わした。
 全般的な疲労は次の3段階に区分できた。@ 離陸およそ2時間後からの疲労の開始。通常経験する飛行時間を過ぎたあたりから疲労を感じ始めている。A 時間経過につれての直線的な増大。疲労変化に大小のリズムや慣れによる平坦化が現れることはなく,直線的に累積されていた。B 着陸1時間前からの急激な減少。拘束状態から開放されることへの期待感,空中給油機と別れて地上との交信によるナビゲーションが開始されたこと,洋上飛行から陸上飛行となったこと,着陸後の活動への緊張感等,これらが疲労を解消したのであろう。
 倦怠感・単調感は全般的疲労を感じ始めた離陸約2時間後からいっきに高まり,着陸直前まで飛行中ずっと継続していた。また眠気は,倦怠感を感じ始めた時期より始まり,倦怠感を感じている期間の中央でピークとなった。
 アドレナリン濃度は離陸前の1.43 μg/100 mg Cr. から着陸後の4.40 μg/100 mg Crへと大きく上昇していた。同様にノルアドレナリン濃度も離陸前の8.86 μg/100 mg Cr. から着陸後の10.58 μg/100 mg Cr. へと上昇を示した。長時間飛行がパイロットにとって精神的,身体的にかなり高い負担となっていたこと,身体的負担よりも精神的負担がより強かったことが明らかとなった。