宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

45. 航空機乗員における動脈硬化危険因子に関する検討

田村 忠司1,五味 秀穂1,島田 敏樹2,亀田 千賀子2,細谷 龍男3

1全日本空輸運航本部乗員健康管理部東京乗員健康管理センター
2全日本空輸東京空港支店総務部健康管理センター
3東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科

Assessment of the risk factors of athrosclerosis in flight crew

Tadashi Tamura1, Hideho Gomi1, Toshiki Shimada2, Chikako Kameda2, Tatsuo Hosoya3

1Flight Crew Medical Administration, Tokyo Office, All Nippon Airways Co., Ltd.
2Tokyo Health Services, All Nippon Airways Co., Ltd.
3Division of Nephrology&Hypertension, Department of Internal Medicine, Jikei University School of Medicine

【はじめに】 航空機乗員において心血管系疾患は飛行中の急性機能喪失を起こしうる航空の安全にとって重大な脅威となりうる疾患であるが,航空機乗員におけるメタボリック症候群の頻度や生活習慣病の特徴などの詳細な検討は少ない。
 【目的】 航空機乗員におけるメタボリック症候群および高脂血症を含む動脈硬化危険因子について,その頻度および特徴を検討し,将来的な心血管系疾患発症の予防対策に役立てること。
 【対象と方法】 2005年10月より2006年5月に健康診断を受診した航空機乗員1441名(192名/20歳代,452名/30歳代,369名/40歳代,399名/50歳代,29名/60歳代)を対象とした。比較対照のために2004年厚生省国民健康・栄養調査 の対象男性1,441名を用いた。腹囲基準をBMI 25以上に置き換えたメタボリック症候群の診断基準の各項目,脂質検査値および尿酸値について10歳毎の年齢別頻度につき検討し,脂質検査については経年変化を検討するため1995年に健康診断を受診した航空機乗員1,501名のデータと比較した。
 【結果】 BMI 25以上の航空機乗員は年齢とともに増加したが,各年代ともに対照者よりも少なく,特に20歳代では4.2% と対照の19.9% に比して少数であった。腹囲基準をBMI 25以上に置き換えたメタボリック症候群の診断基準においては乗員のメタボリック症候群はわずか1.1% で,3項目を満たすものはいなかった。対象乗員においてBMI以外の診断3項目のうち血圧高値は加齢とともに頻度は増加したが,脂質代謝異常・糖代謝異常はむしろ若年齢層の有病率が高かった。一方,高コレステロール血症の有病率は1996年と比較し21.3% から29.1% と増加し,年齢別では1996年には20歳代: 6.8%,30歳代: 18.1%,40歳代: 29.5%,50歳代: 40% と加齢と共に有病率が増加していたが,今回の検討では20歳代: 31.3%,30歳代: 33.2%,40歳代: 32.8%,50歳代以上: 20.6% と20-30歳代で著明な有病率の増加が認められた。高中性脂肪血症も1995年に比較し,40および50歳代で低下したのに比し,20および30歳代では増加した。
 【考案】 腹囲基準をBMI 25以上に置き換えたメタボリック症候群の診断基準においては乗員のメタボリック症候群はわずか1.1% であったが,若年者での肥満の頻度は対照者よりも少なく,採用時に肥満者が少ない影響が大きいと考えられた。メタボリック症候群の基本概念である動脈硬化危険因子の集積は現段階ではすくないが,若年者での糖代謝異常および脂質代謝異常の頻度は高く,年齢とともに肥満および血圧高値者は確実に増加していることを考えると,将来的な複合リスクを持つ乗員の増加が懸念される。さらに独立した冠危険因子である高コレステロール血症の有病率は若年者で著明な増加が認められ,将来的な動脈硬化性疾患の予防には若年からの高脂血症治療を中心とした動脈硬化危険因子に関する積極的介入が重要と考えられた。