宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

44. コックピット・リソース・マネジメントの臨床への応用 その2

吉田 泰行

千葉徳洲会病院 耳鼻咽喉科・健康管理課

An Application of Cockpit Resource Management to the Clinical Field part 2

Yasuyuki Yoshida

Department of ENT, Health Administration Clinic; Chiba Tokushuhkai Hospital

安全管理には普遍性が有り,或る業種・業界で成り立つものは他の業種・業界でも成り立つと考えられる。言い換えれば,航空機の運行の際の安全管理は他の分野でも成り立つものと考えてよい。則ち航空機の運行を考えて見れば,事故は一件でもすぐに夥しい被害をもたらし,なかんずく人的被害は言を待たない。従って航空機の運行の際の安全管理や事故後の対応,とりわけ原因究明の方法などは他の分野から見ても参考になる所が大である。
 その中でも,複数の人間が空間的にも時間的にも限られた場所で限られた物事・情報を使って最大限のパフォーマンスを為すことが要求されるコックピットでは,チームワークの組み方で効用・効果が大幅に変動する。そのため,これを制御する目的で人的・物的・情報リソースの効果的配分・運行が行われ,コックピット・リソース・マネジメントと称されている。
 振り返って我々が従事する臨床の場では,同じような限定された状況の下に最大限の効用・効果を達成することが要求されている。そこでコックピット・リソース・マネジメントを臨床の場へ応用することを前回報告した。しかし,コックピット・リソース・マネジメントはチームワークに於ける協調・協力を前面に押し出すため,元来別々の運命共同体に属する人々を半ば強引に同じ運命共同体に属しているかの如く結びつけている点が有る。また事故や事象(アクシデント/インシデント)につながる間違いの人的因子を完全に払拭するための方策でもない。従ってコックピット・リソース・マネジメントにはネガティブな面も有り,万能の手段ではない。此の点に鑑み,我々の臨床への応用に関して更なる検討を行った。
 まずコックピット・リソース・マネジメントの原義は,そこにある情報(Software)と機械(Hardware),それらを入れている環境( Environment),及びコックピットに搭乗する操縦士・副操縦士等の人的リソース(Liveware & Liveware)を言うSHELLモデルである。これに前述の理由で先ず,同じ機体に搭乗し同じ運命共同体に属する機内乗務員を加えた拡大解釈が行われ,次いで別の運命共同体に属する地上で運行を支える整備士・誘導員等が加えられて更なる拡大解釈が行われ,コックピット・リソース・マネジメントはクルー・リソース・マネジメントと言い換えられた。しかしそのような拡大解釈に対する批判・反省も見られた。又人的リソースの協調・協力に関しては,チームの中で権威勾配をどう克服するか,コミュニケーションをどう取るかという問題も有る。
 そこで臨床の場に於ける応用を考えると,人的リソースをどの範囲まで取り込むか,医者と患者の間には成り立つか等々検討の余地が有ると思われる。このような点を踏まえれば,コックピット・リソース・マネジメントは,ネガティブな面を考慮し限界を知った上で有効に活用できると考えられる。