宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

42. 航空身体付加検査の現状について

福本 正勝1,原 志野1,深尾 裕之1,原田 広行2,津久井 一平1

1財団法人 航空医学研究センター
2国土交通省 東京航空交通管制部

A review of airline transport pilots aged 60 to 65 in Japan

Masakatsu Fukumoto1, Shino Hara1, Hiroyuki Fukao1, Hiroyuki Harada2, Ippei Tsukui1

Japan Aeromedical Reseach Center

【背景】 航空身体付加検査制度が施行されてから,15年が経過した。1996年に有償飛行に拡大し,2002年には検査内容の見直しなどが行われた。さらに,「加齢航空機乗組員(以下,加齢乗員)の医学適性に関する調査」報告書(2004年3月)をもとに,2004年9月より,対象が65歳まで延長され,並びに付加検査項目の見直しが再度行われた。その見直しから,約2年が経過した。現在,付加検査の判定は,航空医学研究センターで一元的に行われている。
 他方,「2007年問題」といわれる団塊の世代の大量退職に伴い,航空機乗組員も不足が確実となり,加齢乗員の需要が伸びることが予測される。
 【対象及び目的】 2004年9月以降,2006年8月までに航空身体付加検査を受検した航空機乗組員を対象に,その実績を取り纏めた。
 【結果】 制度の運用がはじまった1993年から2006年8月までに航空身体付加検査の初回受検者は531名であった。2004年9月から2006年8月までに,初回受検者は203名で,そのうち航空機関士は10名であり,定期運送用操縦士,事業用操縦士がほとんどを占めている。制度改正後の1年目に比して,2年目での60歳時航空身体付加検査受検者数は約1.8倍,63歳では2.1倍となり,大きな伸びを示している。また,2004年9月以降の航空身体付加検査663件に対して,不合格数は30件であり,5% に満たなかった。不合格事例についても,数回に亘る制度見直しを経て,大臣判定を申請できる方法が確立されている。さらに,この航空身体付加検査を利用している航空会社は19社にのぼり,そのうち18社に乗組員の健康管理に関わる医師がいることがわかった。
 【まとめ】 1. 加齢乗員に対する制度改正後の付加検査の現況について報告した。2. 航空身体検査付加検査は数度の見直しを経て,航空機乗組員に対して厳格かつ公平に運用されている。3. 大手の航空会社のみならず,中小の航空会社でも多くの加齢乗員が航空業務を担っていることが明らかになった。
 【結論】 加齢乗員に対する中小航空会社を含めた健康管理の充実,航空機乗組員の航空身体検査並びに付加検査に対する意識の向上,そのための啓蒙が医学的側面からは重要であると思われる。