宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

41. ISS宇宙飛行士医学基準の現状

小池 右,立花 正一

宇宙航空研究開発機構有人宇宙技術部宇宙医学グループ

Current status of ISS astronaut medical requirements

Yu Koike, Shoichi Tachibana

Space Medicine Group, Human Space Technology and Astronauts Department, Japan Aerospace Exploration Agency

宇宙飛行士は毎年1回医学検査を受け認定されることを要求されている。各宇宙機関には所属飛行士の認定を行うため同機関で定められた医学基準がある。JAXA所属飛行士はこれまで米国のSpace Shuttleで往還する2週間程度の短期滞在の経験のみを持ち,選抜や年次医学認定でもNASAの医学基準を参考にして作成されたものを適用してきた。ISS計画へのロシアの参加以降,長期滞在missionは米国とロシアの飛行士を中心に行われているが,それぞれの基準が異なるため軌道上での医学管理に支障が生じることもあった。そのため2002年12月より参加国の医学代表が定期的に参集し,共通医学基準の策定について協議を行ってきた。そして2006年10月に全飛行士に対して共通に適用される「医学要求文書」が制定された。人種により疾患の発生頻度の相違もあり,それぞれの機関が個別に行う医学検査はagency specificとしてappendixに記載されているが,できるだけ共通部分を多くして医学管理をしやすくすることが目的である。同文書は3分冊で構成され,分冊Aは選抜・年次検査を,分冊Bは飛行前中後検査を,分冊Cは宇宙旅行者の検査を取り扱っている。6ヶ月のISS滞在での医学的リスクのtop 5は1. coronary artery disease, 2. arrhythmia, 3. cerebrovascular accident, 4. behavioral & psychological issues, 5. osteoporosisである。このことを踏まえて,分冊Aでは従来のNASAやロシアの医学基準にはなかった脳MRI,MRA,冠動脈石灰化スコアなどが追加され,またソユーズロケット搭乗の必要性を考慮し 1. 身体計測,2. 遠心機搭乗,3. 定圧負荷の3項目から成るSoyuz specific requirementも追加された。また現在の軌道上での医学的な見地からのtopicは酸素供給装置の機能の不安定さと騒音である。また放射線被曝管理分野では物理測定に加えて,飛行後の染色体変異の程度から個々人の放射線感受性も反映した被曝量を推定するバイオドシメトリが将来の医学運用での適用を目指して軌道上での飛行士の検体採取,そして地上での顕微鏡解析という手順で研究が進んでいる。