宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

38. 空港クリニックにおける空港勤務者,客室乗務員の疾病傾向

村越 秀光,恵志 正輝,浅野 悦洋,岩瀬 龍之,牧野 俊郎,益子 邦洋1,山本 保博2

1日本医科大学成田国際空港クリニック
2日本医科大学千葉北総病院救急救命センター
3日本医科大学付属病院救急救命センター

Discussion OF Disease For Airport Employees & Aircraft Crew at the Airport Clinic

Hidemitsu Murakoshi, Masateru Eshi, Yoshihiro Asano, Tatsuyuki Iwase, Toshirou Makino,
Kunihiro Mashiko1, Yasuhiro Yamamoto2

1Nippon Medical School Narita International Airport Clinic
2Nippon Medical School Chiba Hokusou Hospital Department of Emergency & Critical Care Medicine
3Nippon Medical School Department of Emergency & Critical Care Medicine

【緒言】 日本医科大学成田国際空港クリニック(空港クリニック)において,最近1年間に外来受診した16,019症例のうち,空港勤務者および航空機乗務員の疾病の動向について調査,検討した。
 【対象】 2005年4月から2006年3月までの1年間に当空港クリニックに来院した,空港勤務者9,052名(56.5%)および客室乗務員956名(6.0%)について検討した。
 【結果】 空港勤務者は呼吸器疾患2,992名(33.1%)が最も多く,次いで外傷1,523名(16.8%),急性腹症1,027名(11.3%),循環器疾患784名(8.7%),肝・腎疾患507名(5.6%),代謝異常369名(4.1%),感染症162名(1.8%),脳血管障害29名(0.3%),血管疾患8名(0.3%),その他1,648名(18.2%)だった。客室乗務員では呼吸器疾患370名(38.7%)が最も多く,次いで外傷193名(20.2%),急性腹症143名(14.9%),肝・腎疾患48名(5.0%),感染症11名(1.2%),循環器疾患3名(0.3%),脳血管障害,血管疾患ともに1名(各0.1%)だった。救急症例では空港勤務者は総数84例で,急性腹症が17例(20.2%)で最も多く,次いで脳血管障害8例(9.5%),外傷7例(8.3%),循環器疾患4例(4.8%),呼吸器疾患3例(3.6%),肝・腎疾患2例(2.4%),感染症,代謝異常が各1例(各1.2%)その他41例(48.8%)だった。客室乗務員では総数17例で急性腹症が8例(47.0%)で最も多く,次いで外傷5例(29.4%),呼吸器疾患,循環器疾患ともに1例で(各5.9%),その他2例(11.8%)だった。
 【考察】 空港関係者の疾病別月推移で,呼吸器疾患が10月から増加し1月でピークとなり,急性腹症も12月,1月2月が多かった。感染症,特にインフルエンザは1月,2月に増加した。外傷は1年を通じて変動はなく,作業中の事故,転倒,転落が多く見受けられた。客室乗務員の疾病別月推移を空港関係者と比較すると,呼吸器疾患は1月が最も多かったが,比較的少なかった6月,8月,9月を除いて1年間を通じて増減はなかった。これは航空機の機内環境によるものと考えられた。急性腹症は1月,2月,3月に多く,打撲,腰痛症,熱傷,捻挫等の外傷は8月と3月が多かった。水痘,麻疹,細菌性腸炎など感染症は8月が最も多かった。膀胱炎,尿路感染症等は1月と5月が多かった。男女別疾病分類では空港勤務者男性で,循環器疾患と代謝障害が多いのは30〜50歳代が71.7% と多く,比べて同女性では20〜30歳代が77.3% と比較的年齢層が低いことによると考えられた。客室乗務員では84.5% が女性で,膀胱炎,尿路感染症等が多かった。
 【結語】 当空港クリニックにおいて,最近1年間の空港勤務者,客室乗務員の疾病傾向について検討した。今回,空港勤務者,客室乗務員ともに中等症以下の疾病だったこと,また両者とも呼吸器疾患が多かったことは,職場環境,機内環境が関与しているのではないか考えられた。救急症例では空港勤務者,客室乗務員ともに急性腹症が多かった。