宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

35. 空港バリアフリーをめざした高齢者・障害者支援活動

原 行弘1,2,清水 喜由2,小塚 和豊1,2,江崎 泰秀2,上倉 直美2,高橋 加津恵2

1日本医科大学千葉北総病院リハビリテーション科
2NPO法人航空フォーラム

Supportive activity for elderly and handicapped persons barrier-free at airports

Hara Y1,2, Shimizu K2, Esaki Y2, Kamikura N2, Takahashi K2

1Nippon Medical School, Chiba Hokusou Hospital
2NPO Airline Forum

本邦では急速な少子高齢化と障害者の増加に伴い,高齢者・障害者の空港利用機会が近年著しく増えている。ゆえに,空港のバリアフリー化は高齢者・障害者の社会参加促進上,重要な課題といえる。こえまでの空港バリアフリーは,ハードウェアの充実を中心に推進されてきた一方で,ソフトウェアの視点からは必ずしも十分とはいえない。そこで,我々はソフトウェアの視点から,空港バリアフリー・ユニバーサルデザインを推進しようと試みた。我々は成田・羽田空港勤務者を中心に,高齢者・障害者の転倒危険性,補装具(杖・車椅子)の適正使用,安全適切な介助方法について,実体験を含めた啓蒙活動を続けてきた。リハビリテーション医学,老年医学,障害学に基づいた高齢者・障害者の介助について,一般職員にわかりやすい以下の内容とした,@ 高齢者・肢体不自由者の転倒危険性の解説,A 非介助者にとって安全かつ適正な介助方法,B 補装具(杖・車椅子)の適正使用法,C 視覚聴覚障害者への介助方法,D 盲導犬・介助犬の紹介など。バリアフリー講習の受講者の反応は,アンケート調査の結果より,95% の受講者がおおむね理解できたと解答し,90% の受講者がバリアフリーの基本的理念が分かったと答えた。具体的な反応として,@ 経験に基づいた具体的で身近な事例の紹介,実体験の時間が含まれていてわかりやすい,A まずは,“相手を観察して声をかける” ということが非常に重要なコミュニケーションツールである,B ハード面だけでなく,ソフト面(他人へのヘルプ)が重要であり難しくもある,C 初めて体験してみて,困難な動作や力加減を知ることができた,D 車椅子の使い方は慣れないと二次災害や介助者にも危険があることがわかった,E 高齢者の転倒が普通に歩いている時の方が多いのに驚いた,F “空港のここが甘い” という健常者ではわかりえない情報が欲しかった,などの意見がきかれた。このように受講者の反応はおおむね良好であり,新鮮な知識が得られ今後の空港バリアフリーに役立てたいとの回答も多かった。ハートビル法※1(1994年施行)や交通バリアフリー法※2(2000年施行)の施行により,空港バリアフリーはハードウェアの面ではかなり充実してきている。(※1「高齢者・身体障害者が円滑に利用できる特定建築物の建築促進に関する法律」,※2「高齢者・身体障害者の公共交通機関を利用した移動円滑化の促進に関する法律」)受講者の回答にあったように,“高齢者・障害者のお手伝い” を体感してみて,新鮮な驚きとともに難しさと重要性を感じる声が多かった。成田空港で年間3,155万人,羽田空港で年間6,300万人が利用する現状を鑑みると,高齢化社会のもとで,高齢者・障害者に接する意識,適切な介助方法などのソフトウェアの面での充実が急務であることを再認識させられた。逆にハードウェアの面での充実はかなり達成されてきている一方で,空港を利用する高齢者・障害者に接する意識,適切な介助方法などのソフトウェアの面での充実急務であることを再認識させられた。今後も空港バリアフリー支援活動を通じて,高齢者・障害者の社会参加の援助を推進してゆきたい。