宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

33. 下肢の体性感覚入力が自覚的視性垂直位(SVV)に及ぼす影響

和田 佳郎1,長谷川 達央1,2

1奈良県立医科大学第一生理
2京都府立医科大学耳鼻咽喉科

Effects of lower-limb somatosensory inputs on subjective visual vertical (SVV)

Yoshiro Wada1, Hasegawa Tatsuhisa2

1Department of Physiology I, Nara Medical University
2Department of Otolaryngology, Kyoto Prefectural University of Medicine

身体の傾き知覚には,視覚,前庭覚,体性感覚という複数の感覚入力が関わっているが,これまで体性感覚の関与に注目した研究は少なかった。そこで今回,下肢からの体性感覚入力のアンバランスが自覚的視性垂直位(subjective visual vertical, SVV)に及ぼす影響について検討した。
 実験は,下肢からの体性感覚入力のアンバランスを作る目的で,被験者(健常成人5名,22〜32歳)に完全暗所下にて傾斜した(水平,右3度,6度,9度の4種類)床の上で「膝を伸ばして両足に等しく体重をかける」ように指示し,3〜4分間直立姿勢を維持させた。その間,1.2 m前方のCRTディスプレイ上に左6度〜右6度の範囲で傾いた11種類の直線をランダムな順序で提示し,被験者に直線が左右どちらに傾いているかを判定させた。このトライアルを110回繰り返し,得られたデータによる知覚確率曲線からSVVを求めた。また同時に,直線加速度センサーを用いて頭部の傾きを経時的に計測した。実験は日を変えて各被験者2回ずつ実施した。
 床の傾きに対する頭部の傾きおよびSVVの変化について見てみると,いずれもその平均は小さかったが(例えば床の傾き右9度に対して頭部の傾きは右1.0度,SVVは右0.7度),データは比較的広範囲にばらついていた(頭部の傾きは左3〜右4度,SVVは左1〜右3.5度)。また,床の傾きと頭部の傾き,床の傾きとSVVの間には相関は認められなかったが,頭部の傾きとSVVの間には正の相関が認められた(r=0.27,p<0.05)。この結果から,SVVは頭部の傾き(=前庭入力や頸部の体性感覚入力)の影響は受けるが,床の傾き(=下肢からの体性感覚入力)の影響は受けないと解釈できる。ところが,床の傾き条件別に頭部の傾きとSVVの相関を見てみると,水平,右3度,6度,9度と床の傾きが大きくなるにしたがって相関係数も−0.17,0.06,0.53,0.75と大きくなった。この結果は,SVVは床の傾きと頭部の傾きの両者の相互関係によって決定されることを意味している。
 以上まとめると,頭部の傾きが非常に小さくても(4度以下),下肢からの体性感覚入力が加われば傾き知覚を生じさせることが示された。