宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

28. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群と起立性調節障害との関連性について

北島 尚治1,3,渡邊 雄介1,鈴木 衞2

1国際医療福祉大学附属三田病院 耳鼻咽喉科
2東京医科大学 耳鼻咽喉科
3西東京中央総合病院 耳鼻咽喉科

The association between Obstructive Sleep Apnea Syndrome and Orthostatic Dysregulation

Naoharu Kitajima1,3, Yusuke Watanabe1, Mamoru Suzuki2

1International University of Health and Welfare MITA hospital
2Department of Otolaryngology, Tokyo Medical University
3Department of Otolaryngology, Nishitokyo central general hospital

昨今,睡眠時無呼吸症候群 (Sleep Apnea Syndrome; SAS)が注目され,睡眠障害だけでなくさまざまな身体症状とも関連することが知られるようになった。また,起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation; OD) は自律神経失調症の一種で,起立動作に伴う循環器系の変化に自律神経が的確に対応できないために生じるとされている。循環器以外の器官にも各種の症状を生じる場合もあり,片頭痛や軽症うつ病などとみなされ,的確な診断に至らず経過する場合も少なくない。今回はSASによる慢性的な睡眠障害がOD発症の誘因となる可能性について検討した。
 【対象と方法】 対象は2005年8月から2006年5月までに西東京中央総合病院,耳鼻咽喉科外来を受診しOSASにてnasal CPAP装用中の34症例である。男性27名,女性7名で,平均年齢52.8±13.7歳,平均BMI 27.7±4.6,平均AHI 31.7±23.7であった。阿部らの診断基準に基づくチェックリストにてODを診断し,Schellongテストのほか重心動揺検査を施行した。立位心電図は外来での施行が難しいため不整脈の有無を測定した。各種検査を定期的に再検し,nasal CPAP装用後の各種症状の経時的変化を検討した。
 【結果】 34例中12例(35.3%)がOD陽性を示した。OD陽性群 (12例) は平均年齢54.9±13.5歳,平均BMI 30±6.1,平均AHI 28.5±13.4であった。OD陰性群(22例)は平均年齢51.7±13.9歳,平均BMI 26.4±3.0,平均AHI 33.4±4.0で陽性群と同等であった。OSAS患者34例中18例(53%)がSchellongテストで異常所見を認めた。nasal CPAP装用後,自覚・他覚症状ともに軽快し,OSASの治療に伴うOD症状の軽快をみとめた。
 【考察】 これらの結果より,OSASとODとの関連性が強く示唆された。OSASがODを生じるメカニズムとして推測されるのは,慢性的な睡眠障害が自律神経失調を生じ,起立時の心血管循環制御の調節不全(起立不耐性)に至ることである。またSASは動脈硬化を促進させ循環器疾患を併発しやすいことが知られており,このこともまたODのリスクファクターとなりうる。SASが二次性の抑うつや不安といった精神症状を呈することはよく知られており,抑うつが自律神経失調症状を助長している可能性もある。さらには基礎疾患として糖尿病がある場合,糖尿病性末梢神経障害の関与も考えうる。OSASとODの間には様々な要素が介在するため,さらにいっそうの症例の集積が必要とされる。